Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、10月15日に発表された文芸部門のチャートを解説。さらに、全8種類のチャートの中から2冊をピックアップして紹介する。
実写映画公開の『汝、星のごとく』が首位獲得
今回は10月5日から10月11日までの文芸部門のチャートを元に解説する。1位は10月9日に実写映画が公開されたばかりの『汝、星のごとく』(凪良ゆう著)。本作は2022年に単行本として刊行され、2025年に文庫版が発売。2023年に本屋大賞を受賞。瀬戸内の島で育った暁海と母の恋愛に振り回され転校してきた櫂の、15年にわたる愛と選択の物語だ。映画では横浜流星が櫂を、広瀬すずが暁海を演じた。
映画公開後からSNSでも反響が集まっており、さまざまな感想が投稿されている。3位には本作のスピンオフストーリー『星を編む』(凪良ゆう著)がチャートイン。映画公開にあわせて原作にも注目が集まっているようだ。
6位、8位には池井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』上下巻がランクイン。本作も実写化され、大泉洋が主演を務めるドラマが10月10日からスタートした。
2位はその人気から長期間に渡るランクインが予想される小野不由美の『幽冥の岸 十二国記』。本作はシリーズ7年ぶりの新刊となり、過去のシリーズにも改めて注目が集まっている。
10位には坂木司の『アンと幸福』が初登場。本作は和菓子屋のアルバイト店員・梅本杏子(通称:アンちゃん)を主人公にした大ヒットシリーズの第4弾。和菓子の世界を舞台にしたお仕事ミステリー小説で、『アンと幸福』では新しい環境でがんばるアンちゃんに大きな転機が訪れる。
また、14位には大人気ファンタジー小説の最新刊『満月珈琲店の星詠み〜星猫たちのクリスマス・キャロル〜』(望月麻衣著、画・桜田千尋)がランクイン。満月の夜にだけ現れる満月珈琲店では、優しい猫のマスターと星違いの店員が、極上のスイーツやフードとドリンクで客をもてなす。画をイラストレーターの桜田千尋が担当しており、そのかわいらしいイラストも人気を集めているシリーズだ。
11位には2025年の本屋大賞を受賞した阿部暁子の『カフネ』がチャートイン。本作は10月15日に文庫版が発売されたこともあり、前回の79位から大きくランキングを上げた。17位は朝井リョウのエッセイ『そして誰もゆとらなくなった』。本作も前回の82位から大きく順位を上げる結果となった。
朝井リョウの”ゆとり三部作”完結編『そして誰もゆとらなくなった』
今回は文芸部門チャートで17位の朝井リョウの『そして誰もゆとらなくなった』に注目したい。
本作は朝井リョウのエッセイ”ゆとり三部作”の第三弾にして完結編となる作品。2022年8月に単行本が発売され、2025年7月に文庫化された。文庫では書き下ろしエピソードも追加され、三部作のうち最大ボリュームとなっている。2025年9月にはアイドルグループ「カラフルスクリーム」のかれんが「著者紹介で笑い取ってくるのズルい」と添え、本作の著者紹介欄をXに投稿。この投稿が大バズりして話題を集め、朝井氏とかれんの対談も実現した。
“ゆとり三部作”の第一作目『時をかけるゆとり』では、朝井氏の大学での日々や就職活動、社会人生活が描かれた。それから時を経て、『そして誰もゆとらなくなった』の刊行時には、朝井氏は専業作家として活動。どのエッセイも朝井氏の生活や周りの人とのやり取りがユーモラスに描かれている。
本気で取り組んでいるのにどこか空回ってしまう話、お腹が弱くて困っている話そのどれもが臨場感たっぷりに描かれ、エピソードの中の朝井氏はピンチであるはずなのに、読者はクスッと笑えてしまう。特に印象的だったのは、サイン会で読者と対面した際にその話題ができるように、ファンレターの内容をエクセルに入力してデータ化したというエピソードだ。その行動には愛おしさを感じると共に、少し戦慄した。声を出して笑ってしまうこともあるので、公共の場で読むときは注意が必要だ。
朝井氏のエッセイを読んでいると、日常の出来事も、本人の考え方やちょっとした選択によってここまで大きな事件になるのかと驚かされる。私たちの生活でも、本気で取り組んだことが裏目に出ることはある。なんでこんなことにと情けなくなる瞬間も、泣きたくなる瞬間もある。
普段ならあまり知ることのない、人の日常、その人に起こったピンチ。例えばトイレのエピソードなど、普通なら大きな声で人に言わないようなことや情けない出来事も朝井氏はエッセイという形で私たちに教えてくれる。朝井氏のエッセイを読むと、肩の力が抜けていき、気づけば自然と口元が緩んでいるのだ。
“Heisei Books”9位 「十二国記」シリーズ本編第一作『月の影 影の海』
2冊目のピックアップは、”Heisei Books”で9位の『月の影 影の海 上』(小野不由美著)。”Heisei Books”とは、JAPAN Book Hot 100から平成に初版が発売された書籍を抽出し、順位化したチャートだ。
本作は、小野氏の「十二国記」シリーズ本編の第一作。1992年に講談社X文庫ホワイトハートで刊行され、2012年に新潮文庫で刊行された。30年以上前の作品だが、舞台が異世界ということもあり、今読んでも古さを感じない。今年9月にシリーズ7年ぶりとなる新刊『幽冥の岸 十二国記』が発売され、シリーズ自体に改めて注目が集まっている。
本シリーズは、我々の棲む世界と、地図上にない異世界<十二国>とを舞台に繰り広げられる、壮大なファンタジー。二つの世界は「蝕」と呼ばれる現象によってのみ、行き来することができる。
『月の影 影の海』は、主人公の高校生・陽子が突然現れた謎の男に異界へ連れ去られたことから、運命が大きく動き始める物語。異界に着くと陽子はその男ともはぐれ、見知らぬ土地で一人きりになってしまう。妖魔に襲われ、人に騙されながらさまよう陽子と同じく、読者もこの世界のことがまったくわからない。だからこそ、陽子の不安がダイレクトに伝わってくるのだ。
陽子の視点で描かれるこの物語は、特に上巻では苦しい場面が多い。何が起こっているのかもわからない世界を、自分の命は守る、絶対にもといた世界に帰るのだという思いでさまよう陽子は、あまりにも心もとない。
下巻に入ると、陽子は徐々に変化していく。もといた場所では周りとうまくやろうという思いが強く、自分の気持ちより、周囲の目を気にしていた陽子。異界では裏切られ続け、誰のことも信じられない状態が続いたが、陽子はある存在との出会いをきっかけに、「人を信じること」や「自分がどうありたいのか」に向き合うようになる。
自分の意思で行き先や考えを決め、どんどんたくましくなる陽子の姿を見ていると、自分も何かに立ち向かう勇気をもらえる。陽子の姿勢は、周りの評価が気になりやすいSNS時代を生きる私たちにも響くものがあるのではないだろうか。
シリーズ本編の第一作で、知らない言葉や知識も多いが、陽子の心情や成長にスポットを当てている場面が多いので物語に入りやすい。これからどうなるの!?という続きが気になる展開の連続なので、ファンタジーにあまり触れていない人でも読みやすい作品だ。特に下巻では魅力的なキャラクターたちが登場する。上巻で陽子の境遇に胸を痛めた人も、ぜひ下巻まで読んでみてほしい。














