2026年3月17日、米テキサス州オースティンで開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2026のパネルディスカッション「Eternal Icons: Tetris, Sonic & The Art of Timeless Play」に、セガ代表取締役社長執行役員COOの内海州史と、Tetris, Inc.のプレジデント兼CEOのマヤ・ロジャースが登壇。長きにわたり愛されてきたIPがどのように新世代に適応し、イノベーションを牽引しているかを語った。両者は『ぷよぷよテトリス2』(2020年)でコラボレーションしているほか、20年来の親しい友人でもある。

モデレーターを務めたのは、ゲーム業界に20年以上携わる、エージェンシー「Off Base」創業者兼CEOで、ポッドキャスト「re:Play」のホストも務めるグレッグ・オフ。冒頭に「テトリスをプレイしたことがある人は?」と会場に問いかけると、ほぼ全員の手が挙がった。以下、パネルディスカッションの内容をレポートする。

「完璧なゲーム」だから生き残れた


1984年、ソ連のプログラマー、アレクセイ・パジトノフが生み出したテトリス。そして1990年代前半、16ビット時代の象徴として登場したソニック。全く異なる文化的文脈から生まれたふたつのIPが、なぜ何十年にもわたって現役であり続けるのか。この問いに、ロジャースはシンプルかつ鋭い言葉で答えた。

「アレクセイは”完璧なゲーム”を作ったんです。プレイするのは簡単だけど、極めるのは難しい。そして人間が本能的に持っている『カオス(混沌)から秩序を作りたい』という欲求を直撃する。だから1980年代当時、日本大手のパブリッシャーだったアスキー(ASCII)に”レトロすぎる”と断られたにもかかわらず、私の父であるヘンク・ロジャーズがCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でテトリスを発見し、世界に広めることができた。世代が替わっても、誰がプレイしても、必ず自分だけの体験が生まれる。それがテトリスの本質です」

自身の子どもたちの話も交えながらロジャースは続けた。「私はゲームボーイとNES(海外版ファミコン)で育ちましたが、もっと若い世代に話を聞くと、彼らは今、実際に『ぷよぷよテトリス』を家族みんなで毎晩プレイしている。私の友人たちも、小学生の子どもたちも一緒に。世代によってタッチポイントは違うけれど、ゲーム自体の”完璧さ”が変わらないから、どの世代にも刺さる」

一方の内海は、テクノロジーの進化との関係性から語った。「テトリスがゲームボーイで最大のヒットタイトルになったのは、あのパズルの仕組み自体があの時代における革新だったから。ピースが消える瞬間の爽快感は、当時の子どもたちにとって本当に素晴らしい体験だったはずです。ソニックも同様に、16ビット時代に”最速のキャラクター”という新体験を提供した。テクノロジーの進化の波に常に乗りながら、優秀なクリエイターたちと協力してタイトルを重ねてきた。その積み重ねが、今日の土台になっている」

変えてはいけないものと、変え続けるものの境界線

「タイムレスとは、静的である(変化に乏しい)ことではない」というオフの主張を受けて、ロジャースはテトリスの進化の歴史を解説した。

「テトリスのブロックが落ちてラインを消す──この仕組みには絶対に手を加えません。でも周辺のシステムは時代とともにたくさんのバリエーションを生み出してきた。オリジナル版にはスピードも得点もなかった。ゲームボーイ版でシングル・ダブルといった概念が生まれ、今では7種類のピースが均等に出現するバッグシステムが導入されている。ハードコアプレイヤーは次に来るピースを戦略的に読めるようになった。カジュアルプレイヤーには変わらないように見えても、上級者には確実に進化している。映画産業と同じですよ。白黒・無声映画からIMAXになっても、”映画”という媒体の本質は変わっていない。テトリスも形は変わり続けているけれど、魂は変わっていない」

内海は「ロウ(法則)とイノベーション」という言葉でセガの姿勢を表現した。「ソニックらしさを守りながら、常にオーディエンスを驚かせ続けなければならない。ファッションと似ていると思う。時代のトレンドをキャッチしながら、その時々の観客の心をつかむ。口で言うのは簡単ですが、実際には相当な努力が要る」

また、AI活用についての問いにはこう答えた。

「ソニックのファンは、AIを多用して開発されたタイトルをまだ受け入れる準備ができていない。彼らはクラフトマンシップを求めている。制作効率の向上にAIを活用することはこれから避けられないとは思っている。でもソニックに関しては非常に慎重に進める。アメリカと日本では、生成AIへの反発が中国とは大きく異なる。各地域の空気感を読みながら、どう活用するかを見極めている最中です」

コミュニティが動かした歴史:アグリーソニックとCTWC

ゲームIPの進化において、企業の意図より先にコミュニティが動き、結果として歴史が変わったケースが語られた。最も象徴的なエピソードのひとつが、ソニック映画第1作(2020年公開)で起きた「アグリーソニック」問題だ。2019年に公開された最初の予告編で、ソニックの3Dキャラクターデザインに対してファンから猛烈な批判が殺到。内海はその経緯をこう振り返る。

「セガ内部のクリエイターたちは明らかに反対していた。でも映画会社からは”これがルールだ、従え”という雰囲気もあった。ところがトレイラーが出た途端、コミュニティが声を上げた。映画会社はキャラクターを変更し、公開日も延期することを決断した。当時のマーケティング責任者が”ギーク(オタク)がハリウッドに勝った。これは素晴らしいストーリーだ”と言ったほど。ファンの声がハリウッドを動かしたんです」

テトリス側には、また違う形での「コミュニティが生み出した奇跡」がある。Classic Tetris World Championship(CTWC)だ。「ファン同士が自発的に集まり、オリジナルNES版テトリスで競い合う草の根活動から大会が生まれた。我々は常に応援していたけれど、あっという間に巨大な現象になった。YouTubeでの総再生数は9,000万回を超えました」とロジャース。

さらに驚くべき展開が続く。「あるプレイヤーがコントローラーを”ローリング”する操作技術を編み出した。従来では不可能だったスピードが実現。その結果、13歳のプレイヤーがテトリスを”クラッシュ”させるという、それまで誰も成し遂げたことのない偉業が生まれ、ドキュメンタリー映画化されるまでに至った」。企業が仕掛けたのではなく、ファンが自ら育て、世界規模の文化現象へと発展させた好例だ。

ゲームを超えたブランドへ──映画、コラボレーション、そして医療応用

ゲームIPがエンターテインメントの垣根を越えて広がっていく現象について、ロジャースは映画化の経緯を詳しく語った。

「テトリスにはキャラクターがいないから”語れるストーリーがない”と思われがちです。でも、ゲームそのものの背後にある話が驚くほどドラマチックだった。ソ連でゲームを作ったのに権利を一切持てなかった数学者、そこに観光ビザで乗り込んでゲーム省の扉を叩いたオランダ系アメリカ人の父(ヘンク・ロジャース)。父が適切なビザも持たずに共産主義国に行き、ゲームの権利を得ようとしたというのは、ある意味クレイジーな話です。でも2人のプログラマーが出会い、”遊びという言語”を通じて友情が生まれた。その物語の普遍性が映画を成立させた」

#MeTooムーブメントによって一時プロジェクトが中断したものの、7年の歳月を経てApple TV+で完成・公開された。「視聴者数という意味では大ヒットではなかったかもしれない。でもAppleのプラットフォームでは高品質なコンテンツは埋もれない。ずっとそこに残り続ける。映画を見た人がテトリスを再発見し、別のビジネスにつながっていく。1対1の明確な相関関係ではないけれど、確実に波及効果はある」

コラボレーション戦略についても、具体的なエピソードが次々と語られた。Red Bullとの取り組みでは、60カ国でeスポーツ大会を展開。昨年12月にドバイで開催された世界大会決勝では、高さ150メートルの「ドバイフレーム」を舞台に、2,800機のドローンを使ったテトリスゲームが行われた。さらに、Red Bullが「自分たちの缶のデザインには絶対に手を加えない」という不文律を破り、缶の側面でテトリスを実際にプレイできるデザインの缶を1万本限定で制作したことも大きな話題となった。

セブンイレブンのスラーピーやマクドナルドのマックナゲットとのコラボ(中国では48時間で完売)なども紹介され、ゲームIPがいかに多様な業種とシナジーを生み出せるかが示された。

内海は、セガの今後の展開についても触れた。ソニックのほか、『ペルソナ』や『クレイジータクシー』といったIPも推進しており、6月頃の詳細発表を予告。VTuberやアニメプロデューサーとの協業も進行中であることを明かした。

「アニメが今、かつてのゲームが持っていたような文化的な求心力を持ち始めている。ゲーム、アニメ、音楽、映画──それぞれのコミュニティが交差して融合していく時代に差し掛かっている。コスプレひとつとっても、それは立派な文化活動だ。そういった動きすべてを理解し、クリエイターやエージェントと連携しながらブランドを育てていく」

ロジャースは、テトリスとメンタルヘルスの関係についても触れた。「ゲームは長らく悪者扱いされてきた。独立した臨床研究で、テトリスがPTSD症状の軽減に寄与する可能性が示されている。。もしテトリスというブランドで、そこに貢献できるなら──それこそが自分のレガシーになると思っている。なぜ毎日この仕事を続けるのか、という問いへの答えがそこにある」

ゲームの「遊び」はどこから来るのか

セッションの最後、オフは「自分自身の中の”遊び心”をどうやって維持しているか」と問いかけた。

内海は「世界各地を飛び回り、現地の人々と話すことが常に刺激になる。スタジオのクリエイターたちと話すこと、ライブミュージックを聴くこと──さまざまな場所からインプットを受け取ることを大切にしている」と答えた。

ロジャースはこう締め括った。「人生は短い。好きなことをやってください。ゲーム業界にいる人は全員、ゲームが好きだからこの仕事をしている。今この瞬間を生きること。弱さを見せてもいいし、ありのままの自分でいて。そうすれば、素晴らしい友人ができますよ。人に優しくしてください」

テトリスとソニック──どちらも”完璧”であり続けるための問いを更新し続けてきたからこそ、今もここにある。