Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、10月8日に発表された文芸部門のチャートを解説。さらに、全8種類のチャートの中から2冊をピックアップして紹介する。
小野不由美『幽冥の岸 十二国記』先週に引き続き首位
今回は9月28日から10月4日までの文芸部門のチャートを元に解説する。1位は前回に引き続き小野不由美の『幽冥の岸 十二国記』。『十二国記』シリーズは1991年から読み継がれる小野氏の代表作で、壮大なファンタジー作品。本作は、シリーズ7年ぶりの新刊となった。『月の影 影の海 上巻』が”Heisei Books”6位にランクインするなど、『十二国記』シリーズ自体にも注目が集まっている。
2位には10月9日に実写映画が公開された『汝、星のごとく』(凪良ゆう著)が、6位に本作のスピンオフストーリー『星を編む』(凪良ゆう著)がチャートイン。『星を編む』は前回の10位からランクアップした。
13位には今村翔吾の『未だ本能寺にあり』が初登場。本作は日本史上最大の謎に挑む、超大作歴史ミステリー。織田信長はどこへ消えたのか?羽柴秀吉、信長を刺した明智兵、使用人の少女、阿弥陀寺の僧。「あの日」を巡る8人の証言が集まる時、400年、誰も見たことのない”答え”が、導き出される。本書は”Hot Shot Books”では1位を獲得した。
さらに16位には森バジルの『探偵小石は戻らない』が登場。本作は2026年本屋大賞ノミネート『探偵小石は恋しない』の続編。逆転に逆転を重ねた新たなる驚愕体験ミステリだ。名探偵のように事件を解決する日を夢見る、ミステリオタクの探偵・小石は、色恋案件を病的に得意とする。これまでにも調査員の蓮杖と様々な調査に取り組んできた。しかしその日、蓮杖が目撃したのは探偵ではなく、犯人としての小石の姿だった。
その他、3位に『方舟』(夕木春央著)、4位に『イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ著)、5位に『永遠の記憶』(東野圭吾著)など、長期間に渡り人気の作品が今回も集まった。
『汝、星のごとく』のスピンオフストーリー『星を編む』
今回は文芸部門チャートで6位を獲得した凪良氏の『星を編む』に注目したい。
本作は『汝、星のごとく』のスピンオフストーリーで、同作では語りきれなかった3つの中編が収録されている。『汝、星のごとく』は、瀬戸内の島で育った暁海と母の恋愛に振り回され転校してきた櫂の、15年にわたる愛と選択の物語だ。横浜流星と広瀬すずのダブル主演で現在実写映画が公開されている。
「春に翔ぶ」では二人を支える教師・北原の過去が描かれ、「星を編む」では櫂の二人の担当編集者の強い思いが描かれる。そして「波を渡る」では、暁海と北原が語り手となり、『汝、星のごとく』のその先が描かれている。
物語は、視点が変わるとまた違う温度を持ち始める。例えば、『汝、星のごとく』の時点で、北原という教師はどこか謎めいていた。いつも冷静に、しかし確かな優しさを持って櫂と暁海を支えていた北原。一体どういう人生を送ればこのような行動が取れるのだろう、と思うほど、彼はどこか達観しているように見えた。
「春に翔ぶ」を読むと、北原のとった行動の意味が少しだけわかるようになる。おそらく櫂も暁海も知らないであろう北原の過去。本作を読んだ後に再び『汝、星のごとく』を読み返すと、わからないと思っていた北原のことが少し近く感じる。
視点が変わる小説を読むと、人の数だけ物語はあるのだと実感させられる。語られなかった思い、あえて言葉にしなかった理由、優しさ。本作を読むと、そのどれもがまるで星のように輝いて見える。「星を編む」「波を渡る」は、『汝、星のごとく』で感じた寂しさも持ちながら、希望が胸に広がる物語だった。
もちろん『汝、星のごとく』だけでも物語は完成している。しかし本作を読むことで、彼らの人生は私たちの知らないところでもずっと続いているのだと思わせてくれる。そして改めて思う。人はいつでも誰かと手をつないでいる。自分の周りにいる大切な人を、もっと愛したくなるような作品だ。
“Hot Culture Books”1位 東洋哲学をユーモラスに届ける『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』
2冊目のピックアップは、”Hot Culture Books”で1位に輝いた『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』(しんめいP/監修:鎌田東二)。”Hot Culture Books”とは、JAPAN Book Hot 100をもとに、日本図書コードを参照にしたジャンル情報から文化・芸術関連の書籍を抽出し、順位化したチャートだ。
本作は、自分や人生について迷っている人へ、東洋哲学の考え方をユーモラスに届ける1冊。帯には「東大卒・こじらせニートが超訳 ぶっ飛んでるのに論理的 生きづらさが少しマシになるかもしれない それが東洋哲学」とある。本書では、インド・中国・日本から、ブッダ、龍樹、老子、荘子、達磨大師、親鸞、空海、7人の哲学者たちの教えが紹介されている。
哲学を扱った本ではあるが、非常にライトで読みやすいことが大きな特徴だ。例えば、ブッダのことを「超ハイスペックなひきこもり」、龍樹のことを「インドのひろゆき」、空海のことを「陽キャ」と表現している。哲学者たちの教えというとどこか固いものなのではないか、あまりにも”授業”っぽいのではないか、と不安になるかもしれないが、1ページ開いた瞬間からその不安は一気になくなる。本書の最初の文は「虚無!」である。文字も大きくフォントも工夫されており、イラストや写真も多いので、普段あまり本を読まない人でも手に取りやすい。
哲学者の教えをポップに、わかりやすい例を挙げて伝えているだけでなく、著者が哲学に救われたエピソードも語られているので、哲学がとても近くに感じる。読みながら思わず声を出して笑ってしまうようなおもしろさと軽快さがあり、終始楽しく読むことができた。大人はもちろん、学生にもおすすめしやすい作品だ。
社会の中で人と関わっていると、どうしても悩みにぶつかることがある。特に就職や転職、結婚など、人生の大きな節目を迎えるときは「本当の自分」や「人生」について考えることも多いだろう。何かに救われたい気分になるとき、縋りたい気持ちになってしまうとき。そんなに大きな気持ちでなくても、なんとなく元気が出ないとき。そんなときに本書を読むと、肩の力が抜けて元気が出てくる。自分の悩みを一瞬でも手放したいときに読みたい、ビタミンのような1冊だ。














