ストリーミング隆盛のいま、名作はいかにして蘇るか。
Prime Video「キャリー」は、ホラー小説の巨匠スティーヴン・キングによる長編デビュー作を新たに映像化したドラマシリーズ。原作は、ブライアン・デ・パルマ監督による1976年の映画版がよく知られる傑作小説で、その後も幾度となく映像化されてきた。
全8話という長尺でのドラマ化を手がけたのは、映画『サンキュー、チャック』(2024年)や『ドクター・スリープ』(2019年)などのマイク・フラナガン。いまや、ハリウッドでキング作品を誰よりも熟知するフィルムメイカーだ。
現代の高校生活に身を投じるキャリーは、陰謀論やカルト、SNS、有害な家庭、そして学校をめぐる問題のなかで超能力に目覚めてゆく。今回の『キャリー』は、新たに生まれ変わった青春ホラードラマだ。
16歳で初めて学校に通う少女
建設現場の崩落事故で、ラルフ・ホワイトという作業員が死んだ。このことをきっかけに、終末思想に染まっていたラルフが、妻と娘を自宅に軟禁し、外界から隔絶した生活を強制していた事実が判明する。
16歳の娘キャリーは、学校に通ったこともなければ、同年代の友人もおらず、インターネットやスマートフォンとも無縁の生活を送ってきた。しかし、父の死をきっかけにキャリーは初めて公立高校へ通うことになり、母マーガレットも働かなければならなくなった。

これまで自宅に閉じ込められ、厳格な母のもと、本ばかりを読んで暮らしてきたキャリーにとって、家の外は生まれてはじめて触れる「新しい世界」だ。自ら仕立てた服を身につけ、期待に胸を高鳴らせながら学校に登校する。
ところが、人々にとってキャリーは「いわくつきの少女」だ。ある日の体育の授業後、キャリーはシャワールームで初潮を迎え、自分の知らない事態ゆえパニックに陥る。クラスメイトはキャリーを助けるどころか嘲笑し、なかにはスマホのカメラでキャリーを撮影する生徒もいた。

キングの原作小説では、キャリーは幼少期から学校でいじめられ、内向的な性格となった少女だった。しかし、今回のキャリーは「16歳で初めて世界と出会う少女」だ。世間知らずだが好奇心旺盛で、見るものすべてに新鮮な反応を示す。ひねくれたところもなく、周囲の人々にも常にオープンだ。
すなわち、今回のドラマ版「キャリー」は、いわゆるホラーとしての語り口ではなく、いかにも現代的なティーンドラマとして幕を開ける。ただし第1話では、キャリーの関与した「プロムの火災」により多数の死者が出たこと、その真実が誰にも知られていないことが語られるのだ。
いったい、キャリーの身に何が起こったのか。フラナガンは、その謎を解き明かすミステリーに現代をとりまく諸問題を取り込むことで、まさしく「今の物語」として原作をアップデートしている。

カルト2世の家庭、SNS時代の高校生活
キング作品の翻案をいくつも成功に導いてきたフラナガンは、ドラマシリーズというフォーマットを利用し、過去の映画版にはできなかった周到なアプローチを取っている。
そのうちのひとつは、原作にあった、新聞記事や資料、証言などを断片的に挟み込む独特の語り口を映像で再現すること。ドラマ版はフェイクドキュメンタリー的な表現を用い、登場人物が「プロムの火災」を語る証言をはじめ、虚実を織り交ぜた資料や回想を導入し、物語全体を俯瞰するような枠組みを用意している。

そしてもうひとつが、登場人物をより多面的にじっくりと描き込むことだ。
原作では、キャリーの父ラルフは彼女が生まれる前に死亡していたが、ドラマでは16歳まで存命だった設定。ラルフは宗教的な狂信だけでなく、政府や社会への不信、陰謀論的な世界観に基づき、家族を社会から切り離していた。母のマーガレットは夫の死後も、外界には娘や自分に害をなす危機があふれていると信じ込んでいる。
いわばキャリーは、現代で言うところの「毒親の子ども」であり、もっと言えば「カルト2世」だ。母の宗教観は娘の身体や性を抑圧し、彼女は初潮についてさえ何も知らない高校生になっていた。しかしその一方で、マーガレットもまた世界を恐れ、娘を愛するからこそ守りたいと考える母親だ。彼女はそれゆえにキャリーを支配し、娘の自由を奪う。

キャリーをいじめる少女クリス・ハーゲンセンにも、独自の造形がなされている。原作と同じく裕福な家庭で育った設定のクリスだが、母はクラスメイトの父親と不倫して新たな家庭を作ろうとしており、同居している父は経済的危機を迎え、自身の進学も危ぶまれている。
学校に行けば、仲良しだった友人スー・スネルはキャリーの味方をしており、自分のもとから離れてしまいそうな気配がある。家族と学校の双方で抱える孤独と不安が、クリスを暗い欲望へと突き動かすのだ。彼女は匿名のInstagramアカウントを使い、悪意と噂を蔓延させ、キャリーのみならず生徒や教師たちを攻撃する。

原作でも有名なシャワールームでのいじめシーンに象徴されるように、ドラマ版は現代のテクノロジーやSNS環境を取り入れており、より現在の若者にとってリアリティのある残酷さをはらんでいる。脚本の製作にあたっては、現役の高校生に取材し、フィードバックを受けたという。
「13の理由」と「ストレンジャー・シングス」をこえて
フラナガンは、キングによる「キャリー」を再映像化するにあたり、「なぜ今やるのか」を徹底的に問い直したようだ。
製作を決断したきっかけのひとつは、長男が高校進学を機に、自身の学生時代とは大きく異なる現代の高校生活に関心を持ったこと。また、2017年にカリフォルニア州で起きた、Instagramの匿名アカウントによる高校生への嫌がらせ事件からも着想を受けたという。

制作体制も特徴的で、フラナガンのほか、ケイト・シーゲル、アクセル・キャロリン、キーラ・セジウィック、ヒロミ・カマタという女性監督4人がそれぞれエピソード監督として参加した。少女の身体と成長を描く物語には、女性のフィルムメイカーの視点が必要だという判断に基づく選択だったという。
そして本作のストーリーテリングには、これまで配信プラットフォームが培ってきた「青春ドラマ」の影響が大きく反映されてもいる。

たとえば、Netflixシリーズ「13の理由」(2017年〜2020年)のようなダークなティーンドラマ。同作はひとりの少女の死をめぐり、同級生たちのいじめや人間関係、教師や保護者の問題を描き出す物語で、本作もかなり近いアプローチを取っている。クラスメイトや教師たちを含む登場人物を丹念に描き込むことで、群像劇として全編を構築する方法だ。
そこに重なるのが、同じくNetflixシリーズの「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016年〜2025年)に代表される「青春」と「怪異」の融合である。そもそも「ストレンジャー・シングス」はキング作品から大きな影響を受けて誕生したシリーズだったが、本作はそうした配信ドラマの発展を受け、そのエッセンスを逆輸入したような青春ホラーとなった。

「感情」を取り戻す少女の物語
やがてキャリーは、長年の抑圧やいじめによる怒りを、恐るべき超能力として爆発させる。しかしドラマ版における、善良で誠実な少女キャリーは、なぜその怒りから惨劇をもたらすのか。そこにこそ、フラナガンが採用した現代的アプローチの本質がある。
幼いころから欲望や感情を抑圧され、自由に表現することを許されなかった少女は、外の世界に触れたことで喜びや友情を知り、同時に怒りや悲しみに直面する。クラスメイトだけでなく、もっとも身近な存在である母親に対しても、感じたことのない感情を抱くのだ。

自分の知らなかった感情を、キャリーはどのように受け止め、自分自身のものとして取り戻してゆくのか。ひとりの少女の「感情」をめぐるドラマにこそ、彼女を惨劇へと追い込んでしまった社会の闇が表れているといえそうだ。
フラナガンは言う。今回の「キャリー」は、避けられなかった破局ではなく、人々の選択しだいでは回避できたはずの悲劇だと。これはスティーヴン・キングの類まれなる現代化であり、優れた作り手による社会へのメッセージだ。














