Instagramの投稿画面から、ストロベリーシェイクの中身がこぼれ落ちる。そんな”ありそうでなかった”AI動画演出が、SNSで注目を集めている。
今回の手法は、クリエイターの「jenniferbatss」によって紹介されており、投稿は記事執筆時点で32万回以上の再生を記録している。
これは、前回紹介した”InstagramのUIをそのまま視覚的アイデアとして使う”演出の発展形だ。
商品画像、手描き風のキャラクター、そしてInstagram風のUIを1枚のビジュアルとして組み合わせ、その一部分だけをAIで動かすことで、まるで投稿画面そのものが動き出したような映像を作ることができる。
実際の作例では、ストロベリーシェイクの写真から液体が垂れ、写真の枠を越えて下方向へ流れ落ちていく。さらにその先には、口を開けたキャラクターが配置されており、液体がその口へ流れ込む。
本来なら別々に存在しているはずの「商品写真」「InstagramのUI」「キャラクター」が、AIによってひとつの連続した映像としてつながって見えるのが、この演出の面白さだ。
必要なのは主に3つ。「商品画像」「キャラクター」「Instagram風オーバーレイ」。
液体のこぼれ表現やキャラクターはAIで作成し、Instagram風のUIはCanvaテンプレートなどを使ってレイアウト。最後に、それらをまとめた画像をAI動画生成ツールへ読み込ませることで完成する。
ポイントは、画面全体を動かすのではなく、”動かす場所を極端に限定すること”。この作例では、動くのは液体だけで、商品、背景、UI、キャラクターは静止したままだ。
制作フロー
Step 1:画像を用意する
まずは、動画の主役となるメイン画像を用意する。
パッケージが見やすく、商品そのものが画面内ではっきり認識できる写真が理想的。背景がシンプルであれば、その後の加工や動画化もしやすい。
今回のような演出では、飲料やデザートなど、”中身がこぼれる”イメージを作りやすい商品と特に相性が良い。
Step 2:キャラクターとこぼれ表現を作る
次に、Step 1の画像に対して、手描き風のキャラクターや液体のこぼれ表現を加えていく。
この作例では、商品写真の下に口を開けたキャラクターを配置し、その上から液体が流れ落ちる構図になっている。
ここで重要なのは、あとから動画にしたときの”流れ道”を意識してビジュアルを作ること。
どこから液体が垂れ始め、どこへ向かって流れ、最終的にどこへ到達するのかを、静止画の段階で明確に設計しておく。
単にかわいいキャラクターを配置するだけではなく、「液体が口へ入る」というゴールを先に決めてレイアウトすることが、完成度を左右する。
Step 3:Instagram風のUIを重ねる
続いて、Instagramの投稿画面をイメージしたUIを重ねる。
画像の上下関係や余白、投稿画面らしいレイアウトを作ることで、”ただの商品画像”ではなく、”Instagram投稿の一部”のように見せることができる。
今回の紹介動画では、Instagram風のレイアウトを視覚的なアイデアとして活用しており、投稿者はCanvaテンプレートの利用も案内している。
この工程で大切なのは、UIを単なる飾りにしないこと。
商品画像の枠、下に並ぶ情報エリア、キャラクターの位置関係まで含めて、最終的に”写真の枠を越えて液体が流れ出す”ように設計することで、InstagramのUIそのものが映像演出の一部として機能する。
ここまでできたら、1枚の完成画像として書き出す。
Step 4:AI動画で”液体だけ”を動かす
最後に、完成した画像をAI動画生成ツールへ読み込ませて動画化する。
紹介動画では「Seedream 2.5」を使用していると説明されている。
※筆者調べでは、ByteDanceのAIブランド「Seed」には画像生成モデル「Seedream」と動画生成モデル「Seedance」が存在するが、「Seedream 2.5」という公式モデルは確認できなかった。本記事では投稿者の説明に基づいて表記している。
この工程で最も重要なのが、何を動かし、何を動かさないかを明確に指定することだ。
今回紹介されているプロンプトでは、元画像を”完全に維持する”ことを前提としながら、既に存在する液体だけをゆっくり動かすよう、かなり細かく指示している。
実際に紹介されているプロンプトの一例がこちら。
Use the uploaded image as the exact starting frame
and preserve it 100% exactly as provided.
DO NOT CHANGE ANYTHING IN THE IMAGE.
The original doodle character must remain
exactly the same as in the uploaded image.
Do not replace, regenerate, redraw, restyle,
modify, animate, or reinterpret the doodle in any way.
Do not change the doodle’s face,
mouth, eyes, hair, body, hands, pose, proportions, line art,
expression, position, or any other detail.
Do not change the product, packaging, background, Instagram layout, text,
logo, colors, lighting, composition, or perspective.
ONLY THE EXISTING LIQUID MAY MOVE.
Animate only the existing spilled liquid.
Make it slowly and naturally flow downward from
the existing drip, following realistic gravity,
until it reaches the exact center of the original
doodle’s existing open mouth.
The liquid must enter the mouth precisely and completely.
IMPORTANT:
The liquid must never go beyond the mouth.
No liquid may overflow from the mouth.
No liquid may spill onto the face, body, hands, or surrounding area.
No droplets may miss the mouth.
No sideways movement.
No splashing.
No floating liquid.
No liquid passing behind the doodle.
Keep the stream thin, controlled, and continuous
aligned with the mouth.
Once the liquid reaches the mouth, it must
remain visually contained inside
the mouth with no overflow.
Keep the liquid’s original color,
texture, thickness, and
appearance unchanged.
Only add subtle realistic dripping,
viscosity, surface tension, and gravity-based
movement.
The entire doodle must remain completely static
and identical to the uploaded
image from the first frame to the last frame.
No camera movement, zoom, pan, rotation, transition,
morphing, redesign, regeneration, or composition change.
The final result must look exactly
like the original uploaded image,
with only the existing liquid
moving slowly and precisely
into the original doodle’s mouth, ratio 3:4
内容を要約すると、主に以下のような指示が含まれている。
アップロードした画像をそのまま開始フレームとして使用する
画像内の要素は変更しない
キャラクターの顔、体、手、表情、位置などを変えない
商品、背景、Instagram風UI、文字、色、ライティング、構図を変えない
動かしていいのは”既に存在する液体だけ”
液体は重力に沿ってゆっくり下へ流す
キャラクターの口の中心へ正確に入れる
口から液体をあふれさせない
顔や体、周辺へ液体を飛び散らせない
横方向へ流す、浮かせる、跳ねさせるといった動きをさせない
カメラ移動、ズーム、パン、構図変化を行わない
つまりこの動画は、”1枚の絵の中で液体だけを自然に流す”ために、かなり厳密な制御をかけているわけだ。
AI動画というと、つい「画面全体を派手に動かす」方向に考えがちだが、この作例は逆。
むしろ動きを最小限に絞ることで、静止したInstagram投稿の中の一部分だけが、現実の物理法則に従って動いているように見せている。
この”動かなさ”があるからこそ、液体の動きだけが際立ち、強い違和感と視覚的なインパクトを生んでいる。
プロンプト活用のポイント
今回のプロンプトで特に参考になるのは、「何を動かすか」だけでなく、「何を絶対に変えないか」を細かく指定している点だ。
AI動画では、指示が曖昧だとキャラクターの顔が変わったり、構図がズレたり、文字やUIが崩れたりする場合がある。
そのため、今回のような静止画ベースの演出では、「元画像を保持する」「UIを変えない」「商品を変えない」「キャラクターを動かさない」「カメラを動かさない」といった禁止事項まで明記することが重要になる。
特に、Instagram風UIや商品ラベルのように、少しでも形が崩れると違和感が出やすい要素を扱う場合、この考え方はさまざまなAI動画制作に応用できそうだ。
クオリティを上げるコツ
完成度を高めるポイントは、大きく3つある。
1.最初の1枚をしっかり作る
この手法では、動画の良し悪しは静止画の設計に大きく左右される。
商品の位置、液体が流れ始める場所、キャラクターの口の位置などを、あらかじめ丁寧に設計しておくことが重要だ。
2.動きは最小限にする
画面全体を動かすより、”液体だけ”のように1つの要素に動きを絞った方が、元画像を維持しやすく、視覚的な違和感も際立つ。
「動かさない」ことも、AI動画におけるひとつの演出と言える。
3.AIに任せすぎない
Instagram風のUIやレイアウトは、AIだけで生成すると文字やアイコンが崩れる場合がある。
Canvaなどを使って先にデザインを整え、その完成画像をAIで動画化することで、安定した結果を得やすくなる。
SNSの”見慣れた画面”を演出に変える発想
この動画の面白さは、特別な3DCGや高度なVFXそのものにあるわけではない。
むしろ、誰もが見慣れているInstagram風の投稿画面を土台にしながら、その”境界線”を壊すところにある。
本来は写真の中に留まっているはずの液体が、投稿の枠を越えて下へ流れ出す。しかも、その先にはキャラクターがいて、液体を飲み込んでしまう。
こうした”静止画の中のルールが崩れる感覚”が、短い動画の中で強いフックになっている。
AI動画は、何かを大きく動かすためだけのものではない。
今回のように、既存のUIや静止画の構造を活かしながら、一部分だけに動きを与えることで、これまでとは違ったSNS向けの映像表現を作ることができる。
AIそのものの性能だけではなく、普段見慣れているものをどう組み合わせ、どこに違和感を生み出すのか。今後は、こうした”アイデアの設計”がAIコンテンツ制作において、より重要になっていきそうだ。














