いまや、アニメーション映画祭も配信プラットフォームの現在地を映す場所となった。
フランスで開催されている「アヌシー国際アニメーション映画祭2026」(6月21日~27日)では、Prime VideoやNetflix、クランチロール(Crunchyroll)といった各社が放つ新作アニメーションが相次いで披露されている。
目玉は、士郎正宗の人気漫画に基づく「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」と、言わずと知れた人気コミックを新たなアニメシリーズとして再映像化する「THE ONE PIECE」。しかし全体を概観すると、いまや配信プラットフォームには、世界各国の多様なアニメーションが広がっていることがわかる。
「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」
アヌシーのオフィシャル・セレクション「Special Events」部門に公式選出されたのが、「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」だ。士郎正宗による原作は、押井守監督『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)や、神山健治監督によるアニメーションシリーズなどで世界的支持を受けたが、今回は原作回帰といえる絵柄での再映像化となる。
制作は「ダンダダン」『きみの色』など、世界でも注目されるサイエンスSARU。アヌシーでは第1話・第2話が世界最速上映されたほか、スタッフ陣が登壇してのパネルイベントも実施された。
情報ネットワークが社会を覆い、脳と機械が接続される近未来の西暦2029年(!)。全身義体のサイボーグ、草薙素子が「公安9課」を率いてサイバー犯罪や国家間の陰謀に立ち向かう。
海外でも長く愛されてきた伝説的IPの最新作は、日本では関西テレビ・フジテレビ系で7月7日(火曜日)夜11時より放送され、直後の23時30分からPrime Videoにて国内見放題配信。海外240以上の国・地域でもPrime Videoにて展開される。
「THE ONE PIECE」
かたやNetflixは、日本時間6月24日に「Next on Netflix Animation」を開催し、今後の驚くべきラインナップを発表した。
最大の目玉は、尾田栄一郎の人気コミックを新たにアニメ化する「THE ONE PIECE」。長年放送されてきた東映アニメーションによるテレビアニメ版とは別に、原作の「東の海(イーストブルー)編」から再び語り直す。
この企画には、同じくNetflixの実写ドラマシリーズと同様、すでに長大化した(しかし完結していない)IPを、新世代のために届け直す意図があるとみられる。制作はWIT STUDIO、監督は「進撃の巨人」の肥塚正史という新たな座組だが、ルフィ役にはおなじみ田中真弓が起用された。
2027年2月、全7話(総尺約300分)が一挙配信される。「攻殻機動隊」にならび、こちらもひとつの事件だ。
Netflixが仕掛けるアニメーション戦略
Netflixはアニメーション作品を190以上の国・地域、最大34言語で届けており、会員の半数以上がアニメを視聴しているという。2025年の視聴回数は15億回を突破し、いまや特定のファン向けジャンルではなく、全世界のユーザーが日常的に再生するコンテンツとなった。
アヌシーで発表されたうち、日本発作品は、安田佳澄の同名漫画をアニメ化したディストピアSF「フールナイト」が2026年内に配信予定。手塚治虫『リボンの騎士』に基づく映画『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』は8月8日に、京都アニメーションの最新作「二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-」は7月5日より独占配信される。
もちろん世界のアニメーションも見どころで、『Mr.インクレディブル』シリーズや『レミーのおいしいレストラン』(2007年)のブラッド・バード監督による最新作『レイ・ガン』は、もはや実写・アニメーションの境界に縛られない今年最注目作品のひとつ。12月18日に配信開始だ。
舞台は1939年の視点から描かれる、異なる未来に存在する巨大都市メトロピア。私立探偵レイモンド・ガンは、エイリアンや殺人事件、マルチメディアスター「ヴィーナス・ノヴァ」をめぐる事件に巻き込まれていく。出演者はサム・ロックウェル、スカーレット・ヨハンソン、トム・ウェイツほか。
2026年カンヌ批評家週間で、アニメーション長編として初のオープニング作品を飾った『In Waves(原題)』もNetflixに登場する。ロサンゼルスを舞台に、絵とスケートボードを愛する青年AJと、サーフィンを愛する少女クリステンは恋に落ちるが、ふたりの日々はクリステンの病によって揺らぎはじめる。
原作はAJ・ダンゴの自伝的グラフィックメモワール。監督はこれが長編デビュー作となるフォン・マイ・グエンで、青春、スポーツ、初恋をみずみずしく描き出して高い評価を受けた。12月11日配信。
そのほか、人気映画シリーズがアニメーションシリーズとして蘇る「ゴーストバスターズ: ナイト・シフト(原題)」は2027年配信。シンデレラの物語を「いじわるな姉たち」の目線から独自に翻案した映画『リリスとシンデレラのおとぎの王国』は11月20日配信開始だ。
クランチロールの海外戦略
巨大IPの新作やリブート、さらにアニメーション作家による個人的な作品までラインナップするNetflixに対し、別の角度からアプローチするのがクランチロールである。
クランチロールは、日本ではNetflixやPrime Videoほど知られていないが、海外のアニメーション視聴環境を語るうえで欠かせないサービスだ。ソニー・ピクチャーズとアニプレックスが共同運営するアニメ専門プラットフォームで、200以上の国・地域に展開。日本アニメの5万話以上を13の言語で配信しており、有料会員数は2100万人を超える。
このクランチロールがアヌシーに放ったのが、ミッドナイト・スペシャル部門に選出された映画『SEKIRO: NO DEFEAT』だ。フロム・ソフトウェアの人気ゲーム『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』を映画化した作品で、日本では2026年9月4日から3週間限定で劇場公開されるが、海外ではクランチロールにて配信される(一部の国と地域を除く)。
戦国時代、熟達の忍である狼が、特別な血を引く一族の末裔である主人・九郎の運命を変えるべく死闘に臨む。ゲームの世界を手描き2Dアニメーションで再構築した作品で、監督を沓名健一、脚本を佐藤卓哉、キャラクターデザインを岸田隆宏が務めた。
クランチロールは欧州発の大人向けアニメーションにも手を伸ばしており、フランスの長編アニメーション映画『The Wolf(英題)』の世界SVOD配信権を獲得した(日本・中国を除く)。こちらは『スノーピアサー』の原作者ジャン=マルク・ロシェットのグラフィックノベルに基づく、息子を失った羊飼いと狼の対峙を描く心理スリラーだ。監督・脚本は『失くした体』(2019年)のベンジャミン・マスブル&フルシー・テシエ。
ディズニープラス、Apple TVも独自展開
配信プラットフォームにおいて、アニメーション作品はあらゆる層に訴求しうる主力ジャンルとなった。映画を劇場公開するハードルが上がり続ける今、現代のアニメーションはストリーミングが主戦場になっているということでもあろう。
各プラットフォームが、あらゆる作風や作家性をもつ作品を拾いあげ、どの地域で、どのように届けるのかを試行錯誤している。メディアやジャンルとしての拡張が、作品の配給・流通をめぐる争奪戦を生んでいるのである。
そんな中でやや例外的なのは、そもそも自社が巨大なアニメーション工場であるディズニープラスだ。アヌシーには、ピクサーの人気シリーズ『カーズ』より派生したキッズ向けシリーズ「Cars: Lightning Racers」が登場。大人向けアニメーション「キング・オブ・ザ・ヒル」シーズン15もアヌシーのSpecial Eventsに選ばれており、ディズニープラスでは7月20日より配信予定だ。
ちなみに、本連載で『プークーと魔法の植物』を紹介したApple TVはやや控えめ。スヌーピーでおなじみピーナッツ作品の独占配信プラットフォーム(2030年まで)として、アヌシーでは長編映画『Snoopy Unleashed(原題)』のコンセプトや制作過程を報告した。スローペースながら、スヌーピーという長寿キャラクターの作品をまるごと抱え込む――これもまた、配信プラットフォームがアニメーションを資産とする時代のモデルである。














