陸上自衛隊の隊員4名が、英国国防省が主催する軍関係者向けのeスポーツ国際大会「第1回国際防衛eスポーツ大会(IDEG2026)」に出場する。陸上自衛隊中部方面隊が10月7日に公式Xで明らかにしたもので、日の丸入りのユニフォーム姿で出国報告に臨む隊員の写真も公開された。
大会は英北東部サンダーランドで11日まで開かれる。立ち上げ時には40を超える国が賛同を表明しており、今回の出場国は日本、英国、米国、カナダ、フランスなど10カ国とされる。
なぜ「軍隊がゲーム」なのか
軍とゲームの組み合わせに驚く人もいるだろうが、英国ではすでに制度化が進んでいる。英国防省は2024年3月、eスポーツを射撃やラグビーと同じ「軍の公式競技」に認定した。背景にあるのは戦場の変化だ。
ドローンの遠隔操作やサイバー攻撃への対処など、画面越しに状況を素早く判断する能力が現代の防衛に欠かせなくなった。英国防省によれば、ウクライナ軍はドローンのシミュレーターゲームを独自に開発し、操縦士の照準精度や反応速度の向上につなげたという。今大会でもFPVドローンのレース対戦が競技に含まれている。
運営はeスポーツ団体、支えるのは防衛産業
ビジネスの観点で注目したいのは、大会の座組みだ。運営は英国防省から委託された英国eスポーツ連盟が担い、会場も同連盟が手がけた新アリーナを使う。支援企業には英防衛大手のBAE SystemsやBabcock Internationalが名を連ね、公式サイトのパートナー欄には広告会社のM&C Saatchiや地元サンダーランド市も並ぶ。
防衛産業にとっての狙いは広報にとどまらないだろう。大会は将来的に、士官候補生や退役軍人、公務員、防衛産業の従業員にも門戸を広げる計画だ。英国防省自身も、eスポーツをサイバー・デジタル人材の獲得と定着に役立てる考えを示している。ゲームが得意な若い層と接点を持つ場として、採用の入口にもなりうる。
eスポーツ業界にとっての「新しい財布」
eスポーツ業界側にとっても、この構図は無視できない。国内市場は長くスポンサー収入に支えられてきた。国内ゲームメディアのファミ通が行った調査では、2020年の国内市場66.8億円のうち、67.3%をスポンサー料・広告費が占めた。国の予算を背景とする防衛・公共セクターは、民間企業の広告予算とは異なる論理で動く新たな資金源になる可能性がある。
ついて回る「イメージ」の問題
ただし、リスクも考慮しておかなければならないのも事実だ。2020年、米陸軍のeスポーツチームはTwitch配信で戦争犯罪に触れるコメントをした視聴者をBANしたことや、実態は入隊勧誘フォームへの誘導だった「プレゼント企画」が批判を浴び、配信を一時停止した。連邦議会では、軍がゲーム配信の場で活動することを禁じる修正案まで提出された(否決)。同年には『リーグ・オブ・レジェンド』の欧州リーグが、サウジアラビアの都市開発計画NEOMとの提携を、発表の翌日に撤回している。ファンやRiot Gamesの社員、実況陣から反発が相次ぎ、運営側は判断を急ぎすぎたと認めた。
資金の出し手が誰かは、ファンやコミュニティの受け止めを大きく左右する。軍や防衛産業との接点が広がれば、大会運営会社だけでなく、競技タイトルを提供するゲーム会社も「自社の作品がどんな文脈で使われるか」を問われる場面が増えるだろう。
日本の事業者への示唆
日本でも、防衛省は2027年度をめどにサイバー関連の要員を約2万人体制に拡充する方針を掲げ、人材の確保を急いでいる。日本eスポーツ白書2025によれば、国内のeスポーツ市場は2024年に推計161億円まで伸びた。公共セクターとの協業が本格化すれば新たな商機となる一方で、コミュニティとの信頼関係が試される。
誰が、何のために資金を出すのか。その説明責任を果たせるかどうかが、新市場を取り込めるかの分かれ目になる。














