9月17日から20日まで、幕張メッセで「東京ゲームショウ2026」(TGS2026)が開催されている(パブリックデー3日目の9月21日は、台風接近の影響で中止)。30周年を迎えた今回は、国内540社・海外598社の計1,138社が出展し、出展社数・出展小間数(3,999小間)ともに過去最多を更新した。

注目が集まるのは当然、大手パブリッシャーの新作だ。だが混雑する試遊列を離れて会場を歩くと、別の光景が見えてくる。直接ゲーム制作に携わっていない、いわゆる異業種の企業や組織のブースが、確実に存在感を増しているのである。

本稿ではその一例として、半導体メーカー、カメラメーカー、そして地方自治体の出展内容にフォーカスし、TGSという場の性格の変化について考察する。

キオクシア:「競技で使われている」を武器に初出展

展示ホール8(08-C18)に構えられた「キオクシア」のブースは、同社にとってゲームイベント初の出展となる。展示の中心に据えられたのは、SSD「EXCERIA PRO G2 SSD」だ。

この製品は、「第20回アジア競技大会」のeスポーツ向け公式ゲーミングSSDに採用されている。ブースでは同SSDを搭載した競技用PCで『ストリートファイター6』を試遊できる構成が組まれた。PCはマウスコンピューターのゲーミングブランド「G TUNE」とのコラボによるもので、大会の選手が使う環境に近い条件でロード時間や操作の快適さを確かめられる。そのほかポータブルSSDの新色の参考展示や、ゲストを招いたトークイベントも用意された。

改めて同社が興味深いのは、その訴求の仕方だ。SSDの性能は本来、読み書き速度という数値で語られる部品である。それを同社は「競技の公式環境に選ばれた」という一点に置き換え、来場者が自分の手で確かめられる体験として提示している。TGS出展に合わせたセールスポイントのチューニングとしては、総じて一定の効果があるように思えた。

昨今は生成AI需要を背景に半導体メモリへの注目が高まっているが、そこで語られるのはもっぱらデータセンター向けの話だ。コンシューマー向けブランドを立てる場として、TGSの来場者層はたしかに合理的な選択と言えるだろう。

キヤノン:売っているのはカメラではなく配信環境

キオクシアから数ブース離れた、同じ展示ホール8の一角。昨年に続く2回目の出展となった「キヤノン」のブースでは、カメラ本体ではなくiOSアプリ「Live Switcher Mobile Ver1.5.0」が主役に据えられていた。

複数のカメラを切り替えてライブ配信を行うためのツールで、今回のバージョンアップはゲーム配信者との協業を反映したものだという。ゲームプレイ映像とカメラ映像のワイプを自在に拡大・縮小・移動でき、カメラ映像のトリミングにも対応。新設されたAudioタブでは各映像ソースの音量を1画面で管理できる。ブース内では、ミラーレスカメラ「EOS R50 V」と組み合わせた配信を実際に体験できるようになっていた。

▲キヤノンが手掛けるiOSアプリ「Live Switcher Mobile Ver1.5.0」使用イメージ(公式リリースより)

同社はこのほか、1枚の写真から3Dモデルを生成する技術「Dual Pixel 3D」の体験コーナーや、「EOS VR SYSTEM」でレーシングカーの車内から撮影した3D映像をVRゴーグルで視聴するコーナーも設けている。

ここで注目したいのは、1つのブースに性質の異なる2つの提案が同居している点である。配信アプリとカメラの組み合わせは、個人配信者という新しい顧客層に向けたものだ。一方でDual Pixel 3DやEOS VR SYSTEMは、3Dアセットや映像素材を必要とする制作の現場に向いている。撮影機材メーカーにとってゲーム産業は、B2CとB2Bの両方の入り口が開いた市場として映っているのだろう。

静岡市:製品ではなく「街」を持ち込んだ

ホール10の「静岡市クリエイティブベース」は、行政が出展者となっているブースだ。展示の目玉は、静岡市内に本社を置く株式会社A440が同市と連携して進める「街スキャン」である。

七間町通り、けやき通り、駿府城公園、三保の松原、匠宿、用宗漁港から海岸通り、清水港周辺。市内の各所を360度カメラやドローンで撮影し、3D Gaussian Splatting(3DGS)技術で実写に近い質感のままデータ化した。国土交通省の3D都市モデル「PLATEAU」と組み合わせることで、広域の地図と詳細なスキャンデータを行き来できる構成をとる。ブースではVRヘッドセットを装着し、スキャンされた静岡の街を歩き回る体験ができる。

▲静岡市ブースに出展されたVR体験「街スキャン」イメージ(公式リリースより)

ビジネスデイの2日間はセミナーが中心に据えられ、「地方でもクリエイティブ企業は成長できるのか? 静岡進出企業のリアル」といったテーマで、静岡市産業基盤強化本部の職員や進出企業の経営陣が登壇した。一般公開日はVR試遊が中心で、A440がデザインアクトと共同開発した『SPARK! -PHOTON BLAST- VR』の体験版も並べられた。

静岡市がデジタルエンタテインメント企業の誘致に本格着手したのは、令和6年度から。TGSへの出展は2025年に続く2回目となる。市内には関連分野を学べる専門学校と大学が複数あり、ゲームやCGを学ぶ学生は約3,000人規模にのぼるという。「人材の受け皿として企業を呼び込みたい」という動機は明快だ。

ただ、このブースで新しいのは誘致そのものではない。パンフレットで補助制度を説明する代わりに、「その街で制作に使えるデータ」を用意して持ち込んだ点である。誘致の相手が制作会社であるなら、渡すべきものは資料ではなく素材だという判断だろう。

「建設×ゲーム」まで広がる裾野

同じ視点で会場を見渡すと、他にも異業種の出展が見つかる。鹿島建設は、英サウサンプトン大学と共同開発した立体音響技術「OPSODIS」を搭載した卓上型スピーカーを展示。音響建築の設計で培った技術をゲーム体験に応用した格好だ。

部品、撮影機材、ロケーションデータ、音響技術、操作インターフェース。ゲームというコンテンツを成立させる要素は、もはやゲーム会社だけで供給しきれるものではない。異業種の出展が増えているのは、その供給側が自らの顧客としてゲーム産業を認識し始めた結果と見るべきだろう。

見本市から商談の場へ

キオクシア、キヤノン、静岡市の3者が売り込んでいるものは、部品・機材・場所とまったく異なる。共通しているのは「顧客はここにいる」という判断だけだ。

海外出展社が598社と国内の540社を上回った今回、TGSが国際的な商談の場としての性格を強めていることは数字にも表れている。異業種の増加は、その変化の裏面にあたる現象と言える。ゲームが産業のハブとなり、その周囲に部品産業や撮影機材産業、さらには自治体の産業政策までがぶら下がる構造が、フロアの配置としてそのまま可視化されているのだ。

来年のTGSは、果たしてどの業界のロゴが新たに並ぶのか。それはゲーム産業の輪郭が次にどこまで広がるかを示す、もっとも分かりやすい指標になるかもしれない。