2026年で初開催からちょうど30周年を迎えた「東京ゲームショウ2026」(TGS2026)。国内540社・海外598社、あわせて1,138社という過去最多の出展社がひしめく会場で、3年連続となるブースを構えたのがNHKだ。ホール8に設けられた「NHK×ゲーム」ブースは、ゲーム教養番組『ゲームゲノム』を軸に、同局のゲーム関連の取り組みを紹介するものである。
ただし、今年のブースは過去2回と明らかに性格が異なっていた。番組の公開収録を見送り、「どうすれば番組を観られるのか」を来場者一人ひとりに案内することへ力を注いだのだ。本稿では、ブースの内容と、その背景にある”アーカイブ戦略”を読み解いていく。
公開収録から「案内」へ、3年目の方針転換
NHKがTGSに初めてブースを出したのは2024年のことだ。番組の設定資料などを展示したほか、一般公開日にはメインステージで特番『NEW GAME +』の公開収録を実施した。登壇したのは、『ゲームゲノム』のMCを務め《NHK×ゲーム》の顔ともいえる三浦大知氏、『モンスターハンター』シリーズの辻本良三氏らである。2年目の2025年も公開収録を行い、その模様は『ゲームゲノム 特別編 東京ゲームショウ2025スペシャル』として同年10月に放送された。

ところが3年目となる今年、ステージでの収録は行われていない。番組の総合演出を務める平元慎一郎氏は、会期前に国内メディアが実施したインタビューにて、公開収録に割いていた力をブースに振り向けると明かしていた。本当にゲームが好きな人が集まるTGSという場で、まず『ゲームゲノム』を知ってもらうことが重要だという判断である。
ブースで待っていたのは「視聴の入口」
ブースでは、番組に出演してきたクリエイター陣からのスペシャルメッセージに加え、テーマ曲とキービジュアルのメイキングムービーが上映された。テーマ曲を手がける作曲家・下村陽子氏のオーケストラ収録や、キービジュアルを担当する上國料勇氏と三浦氏による制作の舞台裏を収めた映像だ。
とはいえ、今年のブースの本丸は展示よりも”案内”にある。NHKオンデマンド、国際放送のNHKワールドJAPAN、地上波の再放送――『ゲームゲノム』に触れるための複数のチャネルについて、各部局の担当者がブースに立ち、視聴方法や登録方法を直接説明する体制が敷かれた。来場者の視聴スタイルに合わせて最適な入口を紹介する、という布陣である。来場者向けのノベルティとしては、画家・天野喜孝氏が番組のために描いたオリジナルイラストのクリアファイルも用意された。

さらに今年は、関東一都六県のローカル番組を制作する首都圏局も出展に加わった。マスコットキャラクター「しゅと犬くん」のミニゲームやステッカーを用意したほか、夕方のニュース番組『首都圏ネットワーク』では、GDCアワード2026で日本のインディー作品として初めて「Audience Award」を受賞した『ダレカレ』のクリエイター・yona氏へのインタビュー企画を、会期直前の9月15日に放送している。教養番組だけでなく、報道の現場からもゲームを取り上げるNHKの間口の広さを示す構成といえる。
11本の”資産”を届け直す秋
ブースがここまで案内に振り切った背景には、この9月に集中した一連の施策がある。
1つ目はNHKオンデマンドでの配信だ。9月1日から、2021年に放送されたパイロット版とシーズン1の計11本が順次配信されている。うち『デス・ストランディング』『バイオハザード』『ロマンシング サガ2』『This War of Mine』の4本は拡大版での配信となる。視聴は月額990円(税込)の「まるごと見放題パック」か、1番組110〜220円(税込)の単品購入から選ぶ形だ。
2つ目は海外展開である。シーズン2で放送した『MOTHER2 ギーグの逆襲』回の拡大版をもとに英語版を新たに制作し、9月13日にNHKワールドJAPANで放送した。ゲーム内のセリフは北米版『EarthBound』の表現に合わせるという徹底ぶりだ。『デス・ストランディング』回の英語版とあわせ、地域制限のないVOD配信も行われている。
3つ目が地上波での再放送で、9月16日未明には『NieR:Automata』回と『ゲーム音楽SP』がNHK総合で放送された。
パイロット版の放送から約5年。これまでに26本を放送し、うち7本は拡大版も制作してきた。しかし地上波放送は刹那的で、見逃し配信も1週間に限られる。平元氏は、積み上げた放送回を”資産”と捉え直す今回の展開を、「点だったもの、線だったものを面にしていくこと」と表現していた。新作の制作をいったん止めてまで視聴環境を整えた以上、その存在を知らせる場が要る。TGSのブースは、まさにその”面”への入口として設計されていたわけだ。
「届いている」という実感
では、その狙いは来場者に届いたのか。ブースで話を聞いた『ゲームゲノム』の制作スタッフは、次のように振り返る。
「ゲームゲノムをはじめ、NHKが行ってきたゲーム関連の施策がたくさんの方々に届いているという事実を、TGS出展を通して受け止めることができた」

平元氏は、深夜番組ゆえに認知を広げるのに苦労してきた5年間だったとも語っていた。その番組の作り手が、ゲームファンの集まる場で反応を直接受け止めたことの意味は小さくない。なお、TGS2026は当初、史上最長となる5日間の会期を予定していたが、台風25号の接近により最終日の9月21日は開催中止となった。予定より1日短い出展となったなかでも、作り手が確かな手応えを得たことがうかがえる。
作るだけでなく、届け方まで設計する
配信サービスや動画プラットフォームが乱立する今、番組は「作って放送すれば観てもらえる」ものではなくなった。平元氏は、NHKにしかできないことを伝える自負がある一方で、それを知ってもらうこと自体に高いハードルがあるという危機感も口にしていた。
今年のNHKブースは、その課題に対するひとつの回答だったといえる。過去の放送回を配信・国際放送・再放送という複数の経路に載せ直し、ゲーム好きが最も集まる場所で、一人ひとりに合った入口を手渡す。華やかなステージを手放した代わりに得たのは、番組と視聴者を直接つなぐ接点だった。

ゲームを”文化”として伝える番組が、TGS30周年の会場で示したのは、コンテンツを作るだけでなく、その届け方まで設計し直すという姿勢である。














