ここまで2回、アイドルの話をしてきましたが、私は間違いなくアニヲタでもあります。というわけで今回は、アニメの話をさせてください。
実はこの2026年の夏というのは、アニメの話題がかなり多かったシーズンです。街に出れば『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が大ヒット中。『まどか☆マギカ』の新作劇場版〈ワルプルギスの廻天〉が、とうとう13年ぐらいの期待を経て公開され、こちらも大ヒットしていて。個人的には、『パトレイバー』のもともとのスタッフだった出渕裕さんがちゃんと監督をやってシリーズを作っている『機動警察パトレイバー EZY』が展開中、というのもめちゃくちゃ熱いことだったりします。
そして、夏のテレビアニメがめちゃくちゃ豊作です。ただ、今回したいのはその「話題作」の話ではありません。
ネットで話題になっているアニメと、データで本当に観られているアニメは、全然違う——今回は、62万台のテレビが教えてくれた、そういう話です。
2026年の夏アニメが、めちゃくちゃ豊作でした
まず今シーズン、本当に話題になっている作品が多くて。たとえば『さよならララ』。今、オリジナルアニメでこういうのを作るんだ、という一本です。それから、僕が運営に関わっているマンガ大賞で大賞になった『これ描いて死ね』が、ものすごく美しい島の風景をバックにアニメになっています。「この作品、こんなアニメになるんだ」という『ヤニねこ』。すごい野心作だなと思うのが、世阿弥の話を今アニメでやる『ワールド イズ ダンシング』。そして個人的に一推ししているのが『天幕のジャードゥーガル』というアニメだったりするんですが——この話は後ほど。懐かしいところだと、このシーズン、『鉄鍋のジャン!』とか『天は赤い河のほとり』とかがアニメ化されているって、ご存知だったでしょうか。
さて、そんな感じで、テレビアニメは今、3ヶ月ごとに新しい作品が放送されます。だいたい1月、4月、7月、10月。そして放送されるたびに毎回、新作が70作品ぐらいあるんですよ。とんでもない数ですよね。これはとても全部見ていられない。
でも、世の中には「見ている人」がいます。
62万台のレグザは、「本当に観られているアニメ」を知っている
レグザというテレビの機種、ご存知ですよね。そのレグザの視聴データをまとめている、片岡さんという方がいらっしゃいます。この方がとんでもないです。もともと「録画の神」と呼ばれていて、レグザの非常に高機能な録画システムやクラウドサービスを今の状態まで持ってきた立役者のお一人なんですが、その片岡さんが、東京・神奈川・埼玉に存在する約62万台のレグザのデータを分析するということをやっていらっしゃいます。
それが「アニメデータアワード」という企画です。集計したデータを見ながら、各年代別だったりとか、「本当に観られているもの」を世の中に問うていく。これを私、片岡さんのお相手として、2年ほどご一緒させていただいております。アニヲタの一人として、面白すぎるなと思って。
今年も、7月にアニメがスタートして1ヶ月半ぐらいしてから、「今こんなのが観られていますよ」というのを世の中に問う配信を8月25日にやりました。その内容が、大きな話題になったんです。
これがなぜかというと、もともと私がアニメデータアワードに肩入れするようになった理由と、全く同じことに皆さんが気づいたからなんですよね。つまり、ネットで話題になっているアニメがあります。たとえば今なら『ヤニねこ』とか、めちゃめちゃ話題になっている感じなんですけど、『ヤニねこ』ってデータで見ると、そんなに順位の高いところには来ない。一方で、本当にレグザのデータとして観られている作品というのが、ズバーンと出てくるわけですよ。で、そのズバーンと出てきているアニメが、全然ネットで話題になっていない。
誰も話をしているところは聞いたことがないけれども、視聴データを見ると間違いなく観られている、という作品がある。「本当に観られている作品」がこの企画によって明らかになるのが面白くて、私は毎回お付き合いさせていただいているわけです。
50代男性の上位12作品、11作品が「異世界系」だった
今回ももちろん、定番のアニメはちゃんと観られていました。ただ、バズっていたときに話題を席巻していたのは、「50代男性に今シーズン観られていたアニメ(データ区分は50〜64歳男性)」でした。


この層の上位12作品のうち、11作品を異世界系が占めていて、『世界最強の後衛 〜迷宮国の新人探索者〜』は視聴ランキングで7位。そのうえで、「この層で突出して観られている作品」としては、トップに挙げられていました。こちらがめちゃくちゃバズってました。
言ってしまうと、会社で辛い思いをしていた人が亡くなってしまって、いわゆる異世界に転生すると。それで、後衛——いわゆる「後ろ側を守る」職業に就いたところ、これがうまくハマっている、という物語だったりするんですが。そうなんです。言ってしまうと、異世界系の作品の中でも、そんなに意外性のあるタイプの作品ではありませんでした。でも、これが50代男性で、突出して観られていたんです。
もちろん、全体のランキングを出すと、他にも今なら『転スラ』——わかりますよね、『転生したらスライムだった件』。あちらももう大、大、大河ドラマになってますからね——なども入ってきます。それも含めて、実は今、62万台全体の、性年代とか関係ないランキングでも、ベストテンのほとんどを異世界系の作品が占めているんです。「そんなに?」っていうぐらい。
「なんでそうなってるの?」と思う方もいるかもしれません。でもこれ、エンターテインメントの本質にちょっと関わってくる話なんだなと思ったんですよ。つまり、なるべくたくさんの人に、ストレスなく観てもらうということが、エンターテインメントではめちゃくちゃ大事なんだな、というのがよくわかる。
異世界系の作品がどうしてそんなに多くの人にストレスなく観られるのか。面白いポイントが、二つあります。
異世界系は、「現代の時代劇」である
一つは、時代劇と一緒なんですよ。
時代劇だったら、江戸の街が出てきて、侍がいて、武家屋敷があって、みたいなのが当たり前じゃないですか。それと同じで、当たり前のように冒険者がいる。「小説家になろう」というサイトから出てきたので「なろう作品」という、ちょっと揶揄気味な呼ばれ方をすることがあるんですけど、その舞台はほとんどが、ヨーロッパ風の自然豊かな温帯の世界。原っぱを、剣と魔法の存在が歩いている。これも少し揶揄気味に「ナーロッパ」という言葉があったりするぐらいなんですが、ほとんどの場合、そういう舞台です。
そういう舞台で出てくるものは、モンスターがいて、魔法使いがいて、僧侶がいて、ダンジョンがあって。「ギルド」という言葉がこんなに当たり前なのかな、と思わないでもないですけど——これ、要は時代劇なんですよ。道具立てがいつも同じ。だからこそ、見やすいわけですよね。僕らも「武家屋敷」って言われたら、時代劇を見ていれば「まあ、武家屋敷よね」と思うじゃないですか。そういうことですよ。
そして主人公はだいたい、現世では恵まれなかったけれども、異世界に行くと能力に溢れていて、実績を上げて、多くの場合には異性にモテる。ここまでお約束で決まっているので、見るコストが非常に低いんです。『水戸黄門』を見るときに、「『水戸黄門』だから、ちょっと頭を使うから考察が必要だな」と思いながら見ること、あんまりないじゃないですか。そういう、見るときのコストの低さがめちゃくちゃあります。
「だからこそつまんない」みたいなことを早合点で思う方もいるかもしれませんが、時代劇に名作があるように、この同じ道具立ての中にも、面白い作品は当然、大量に存在しています。
なぜ「日常系」アニメは消えたのか
これが一つ目、時代劇だからこそみんながコスト低く観られている、というポイント。そしてもう一つのポイントとして、僕が考えているのが——これね、「世界向け」なんじゃないか、ということなんですよ。
これは逆を考えるとわかります。10年単位で昔になりますでしょうか、「日常もの」と言われるアニメ——たわいのない日常を、多くの場合は4人組の女子高生が過ごしていく。そのモチーフが部活ごとに違う、みたいな作品がものすごい数作られた時代が、やはりありました。でも、かつて一大ジャンルだった、女子高生の日常や部活を描くタイプの作品は、以前ほど前面には出なくなりました。
なんでか。アニメって今、世界で観られるようになっているじゃないですか、日本発のジャパニメーションが。そうなると、日本の学校生活、特に「部活」みたいな文化は、海外の視聴者にとって必ずしも前提知識として共有されているわけではないんじゃないか、と。
それに対して、異世界ものというのは基本的に、ゲーム——RPGの剣と魔法の世界観です。RPGで共有されてきた剣と魔法の世界観って、日本の人も、アメリカの人も、中東の人も、中国の人も、ある程度イメージしやすい。あのヨーロッパのような——さっきの言葉であえて言いますけど、ナーロッパ的な——魔法をベースにした世界です。だから、世界の人にも伝わりやすい世界を描こうとすると、日本の日常よりも異世界のほうが入りやすい場合があるんじゃないかと思うんですよね。
つまり時代劇って、ワンパターンというか——言い方を変えれば「王道」ですよね。その時代劇は、日本人ならピンとくるけれど、世界中はピンと来ていなかったかもしれない。その時代劇を、「異世界」というより広く共有されやすいフォーマットでやっていることが、今の異世界もののアニメがこれだけ観られている理由の一つなんじゃないかと、僕は思っています。
それでも僕は、『天幕のジャードゥーガル』を観る
で、ちなみにそんな中で、私はもうアニメを見すぎちゃっている人間なので、濃いアニメが大好きで。今は『天幕のジャードゥーガル』が一番面白いわけですよ。
モンゴル帝国の物語ですよ。日本人があまり考えたことのない。奴隷の少女がペルシャから連れてこられて、モンゴル帝国の中で一定の地位を占めて、そこから権謀術数を巡らせていく物語で。征服の物語ですから、残酷なシーンもいっぱい出てくるのに、可愛らしいキャラクターデザインで、ものすごい政治劇、歴史劇が展開していく。勧善懲悪みたいなわかりやすいストーリーは当然ないし、誰かが誰かにモテるなんて、そんなことはとりあえず二の次だよ、というアニメになっているわけです。
あえて申し上げますが、僕はこれ、「アンチポルノ」だと思っていて。私たちが想像しがちな、わかりやすい価値観を肯定してくれるような作品とは全く違う。そこが面白くて観ているんですけど、これはですね、「私は明確にアニメを見るのが趣味だ」「アニメを見ることにコストを使うことを全く厭わない、むしろかけさせてください」という人間にはたまらない、いわば「プログレアニメ」なんですよ。音楽で言うならプログレ(編集注:1970年前後に発生したプログレッシブ・ロックという音楽の多様性が爆発したムーブメント)、みたいなものとして、私は『天幕のジャードゥーガル』をすごく楽しく観ています。
でも、一生懸命仕事をして、気楽に娯楽を観たい人というのが、今、アニメを見る人のかなりの部分を占めている。そういう人たちにとって、プログレが重いというのはよくわかるな、と。それが今回、『世界最強の後衛』が受けていることの理由かなと思っております。
異世界の次は、何が来るのか
異世界系の天下は、今後もしばらく続くんじゃないかと思います。ただ、日常ものの天下がずっと続いたわけではないように、いずれまた、「みんなが面白いって思うけど、それは思いつかなかった」という新たなものが出てくるはずで。そう思わせてくれるところが、やっぱりアニメの面白さだと思うんです。
さて——今後は、どんなジャンルが面白くなるんでしょうか? 答え合わせは、これからも毎クール、データと一緒にやっていくつもりです。
ちなみに、アニメデータアワードで片岡さんのお相手をするのは、一応お仕事です。ただ、アニヲタの一人として面白すぎて続けている——という意味では、半分くらいは仕事じゃないです。今後もアニメ、いっぱい観ていきます。それでは、また次回。














