この連載の第1回で、TIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)を約70組観た話をしました。実はあの夏、もうひとつ——30年以上アイドル現場に通ってきて、見たことのないイベントに行ってしまったんです。

8月15日と16日、お台場のダイバーシティの前にある広大な駐車場——「お台場R地区」と呼ばれる特設会場で初開催された「POP GALAXY 2026」。はっきり言ってしまうとアイドルフェスなのですが、初日が行われているうちから、「なんだかとんでもないイベントらしい」という話がXで次々に流れてきました。曰く、伝説の「ガールズ・ポップ・フェスティバル in 淡路島」(2016年)の再来ではないか、と。

本当はその16日、僕はコミケに出展するつもりでした。ところが申し込みをし損ねていまして。入金期限を勘違いして、クレジットカードの決済が間に合わなかったんです。それで、幸いというかなんというか、ぽっかり空いた日曜、予定を変更してPOP GALAXYに行ってまいりました。

結論から言うと、すごかった。「素のアイドル」と「素のアイドルファン」とは何かを、強く感じるイベントだったんです。

今回は、この2日目の話をさせてください。

会場に着くと、そこはカオスだった

8月16日、お台場へ。この日はまた、天候にも恵まれていませんでした。結構な雨が降って、後半になってようやく止む、という空模様です。

行ってみてまず思ったのが、「一般的な大型アイドルフェスとは、かなり勝手が違うぞ」ということでした。

会場にはステージが7つあるんですが、「ここから何ステージです」という表示がどこにもないので、どのステージが何ステージなのか、よくわからない。出演しているアイドル自身も、タイムテーブルを見ながら「多分この時間、ここのはず」と確認しながら動いている状況です。

雨だったので暑さはそれほどでもなかったんですが、暑さ対策だったのでしょう、野外の会場の真ん中に、謎の氷柱がただただ置いてある。冷風機も用意されてはいるものの、電源が引かれていないので、テントの下にオブジェとして鎮座している。お客さんの動線を、物資を運ぶバンが普通に走っていく。皆さん自分で自覚を持たないと危ないな、という状況が生まれていました。

サブステージは、後ろにベニヤ板が張ってあります。正直、村祭りでももう少し幕が張ってあるよね、という、木目がくっきり見える状態の前でアイドルが歌い踊っていて、目隠しもあまりないので、次に出演するアイドルが通るのがベニヤ板越しに平気で見える。

各ステージに常駐している安全管理のスタッフさんは、どうもほとんどの方が日本語のほぼ通じない、海外から来られたとおぼしき方々で、背中にひらがなで「ぽっぷぎゃらくしー すたっふ」と書かれたTシャツを着ていらっしゃいました。ただ、僕が見た限り誰も問題は起こしていなくて、皆さんパイプ椅子に座って、「アイドルとアイドルファンって、こんななんだ。面白いな」という顔をされていました。

70分押し、屋根なし、そして「ダンス禁止」

メインステージには、メジャーデビューしているウェルメイドなアイドルがそれなりにたくさん出ていました。ただ、こちらもかなり独特なことになっていて、当たり前のように70分押しが起きている。出演者サイドの方にうかがった話では、イベント側からの連絡がないまま、出番が入れ替わっていたこともあったそうです。

そして、ステージには屋根がありませんでした。メインステージにすら、です。それでいてステージ自体は非常に背が高い。集まっているのは数百人規模なのに、数万人が集まるサマーソニックと同じ、2.4メートルくらいの高さのステージを組んでしまっている。ステージに上がったアイドルの方に聞いたら、結構揺れるらしい。

その屋根のない高いステージに、16日、雨が降りました。結果、何が起きたかというと——「ダンス禁止」です。途中からは運営からも「傘を使用した歌唱のみ、または移動なしのライブ」という案内が出て、アイドルは基本的に、その場に立って歌うことしかできない。いちばん雨のすごい時間帯に出演していたLuce Twinkle Wink☆は、傘を差してパフォーマンスをしていました。

ダンス禁止のアイドルフェス。どうなっちゃうんだろう、見たことないな、と思っていたんですが——これがね、意外に、表情と歌と手振りだけでもかなり見られるんです。アイドルってプロだな、と改めて感じさせられました。

やりきるアイドル、逆手に取るアイドル

この状況でも、ちゃんとやりきるアイドルは、やっぱりメジャーサイドに多かった。たとえばばってん少女隊。いま音楽的にかなり複雑で、味わいのある曲をやっている彼女たちが、この場でも表情と手振りだけできっちりやりきっていました。Maison de Queenも、普段はもう本当にエモエモ系のパフォーマンスをする人たちなんですが、立ち位置を限定されたことでむしろ別のエモさが立ち上がっていて、かっこよかったです。

一方で、この状況を逆手に取るアイドルも出てきました。

まず愛乙女★DOLL。普段は割と可愛いことをやってくれるタイプだと思っていたら、パフォーマンスの途中で突然、全員がステージからいなくなったんです。え、何?と思ったら、ステージを降りて、お客さんと同じ高さ——つまり路上まで降りてきてしまえば、ダンスをしても問題ないでしょう、ということで、そこで踊ってみせた。後ろの方からはお客さんが見えづらかったかもしれませんが、視界を塞ぐほどの人出でもなかったので、これはむしろかっこいい。

そう思っていたら、日が落ちてから出てきたTHE ORCHESTRA TOKYO。彼女たちも普段からエモエモなグループですから、何かやるだろうと思ったら、やっぱりステージを降りてきて。なおかつ——これはお客さんが用意したのか、運営側なのかわからないんですが——そこでシャボン玉を吹いている人たちがいて、その画がめちゃくちゃかっこよかった。うっかり感動してしまいました。

サブステージの一つに出ていたさとりモンスターは、MCでお客さんに「安全第一」を呼びかけていました。アイドルのMCであんまり聞かないな、これ、と思いながら聞いていました。

きらフォレと、オレンジ色の「花火」

で、この状況の中でいちばんめちゃくちゃいろいろやっていたのが、煌めき☆アンフォレント。きらフォレです。

前提として、このイベント、初日の段階で「これはやばそうだ」ということになって、ちゃんとしたアイドルフェスを待っている人たちは、2日目にはもう会場に来なくなっていたんですね。逆に2日目を待っていたのは、「アイドルは必ずしもウェルメイドな状況ばかりが楽しいわけじゃないだろう」「生身のアイドルと生身のファンがいれば、アイドルイベントはできるよね」と思っているタイプのファンでした。

きらフォレは前日の段階から、そういう対応をするぞということを、プロデューサーのへなぎさんがXで予告していました。一体どうやりきるんだろうと思っていたら、まず1曲目。ステージ上で歌って踊れないので、いまアニクラでいちばんお客さんが騒ぐ「とっとこハム太郎」から始めたんです。「大好きなのは」「はいせーの!」「ひまわりのタネ!」「オレモー!」というコールがもう様式として決まっている、あの曲です。ヲタクの大好きなところからスタートするんだな、と。

そこからエモエモなパフォーマンスが続いて、終盤。きらフォレには、ウレタンに包まれた多色に光る棒という公式グッズがあるんですが、それを持った人たちが大量に集まってきて、ステージ横の大きなスペースにみんなで丸いサークルを作って、光る棒を持って走り回っている。そして最後の最後——アイドル現場でいちばんやってはいけないとされている「サイリウム投げ」を、リスクを承知した人だけが集まっている現場で、やっていました。

オレンジ色のサイリウムが、何百本と宙に投げられる。日が落ちた後だったので、これがもう、ちょっと綺麗なんですよ。言ってしまえば、物理的に質量のある花火です。普段のフェスでは絶対にやってはいけない肩車をしている人がいて、そこに向かってわーっと投げて、下に落ちたサイリウムをまたヲタクたちが拾って投げる。正直、30年以上アイドル現場に通っていますが、見たことのない風景がそこにありました。

そして最後は、きらフォレ側からの呼びかけで、ヲタクたちがみんなでちゃんとサイリウムを拾って、一本も残さず帰っていきました。

先に、はっきり言っておきます。これは、どこのイベントでもやっていいというものでは全くないです。アイドルファンというのは本来、ルールがあればなんだかんだ言って守る人が大半です。今回は、1日目の段階でリスクを承知した人しか2日目に来ない、という状態になっていたからこそ起きたことで、他の対バンやフェスで絶対にやってはいけない。

素のアイドルと、素のアイドルファン

そのうえで——だからこそ、この日は、アイドルとアイドルファンの良いところがむき出しになっていたと思います。

まずアイドル側。目の前の人を楽しませる、という根性がすごい。せっかく見に来てくれたんだから、この状況だろうとなんだろうと、私たちはアイドルとして人を楽しませるためにここにいるんだ——という覚悟みたいなものが見えて、すごく感動した部分がありました。

そしてアイドルファン側。まず、サバイバル力が高い。状況がこうであれば、文句を言うより先に受け入れよう、という姿勢。それともうひとつ、久しぶりに実感したのが、ヲタクは「楽しむ天才」であるということです。

結局、生身の人間と人間のやり取りがアイドルなんだな、アイドル現場なんだな、アイドルという現象なんだな、と改めて思いました。

念のため言っておくと、すべてのアイドルファンがこうあるべきだ、なんてことは全くありません。たとえば最近、=LOVEなどをきっかけに増えている女の子のファンは、ちゃんと運営されたアイドル現場があるからこそ来てくれているわけです。ウェルメイドな現場も、むき出しの現場も、基本の面白さは一緒。ただ今回は、後者が極端な形で立ち上がった、ということだと思います。

それでも、これは「もう一回」やってはいけない

今回、僕は怪我人の話を聞いていません。ただ、怪我人が出なかったのはほぼ奇跡に近い。「今年これで良かったから、もう一回やっていいだろう」は、絶対にダメだと思います。

最終的にあの場に残っていたのは、愛を持って「クソイベ」と言い合えるような人たちだけでした。素晴らしさとリスクの両方をわかった上で来る人たちがいる、という意味で、ゾーニングというのはめちゃくちゃ大切だなと改めて思いました。

そして一方で、TIFや@JAM(アットジャム)のような、伝統的に安定して運営されているイベントが、いかにプロの運営の緻密なノウハウの積み上げの上に成り立っているか。これが本当によくわかりました。ちゃんとしたフェスをやっている人たちへの尊敬の念が、ものすごく増した1日でもありました。

来年、これがもう一回やれるのかというと——もう一回やるときに、この奇跡は起きないだろうと思います。やるのであれば、TIFや@JAMのような、ちゃんとした運営になって続くことを祈っています。

なお、主催側もイベント終了後、「初開催ということもあり、設備や進行面をはじめ、至らぬ点やご不便をおかけした場面が多々ございましたこと、改めてお詫び申し上げます」と、公式Xで声明を発表しています。

今回も、仕事じゃないです

第1回のTIFは、一応「出演者」として行っていました。今回のPOP GALAXYは、完全にプライベートです。コミケの代わりに、ただのヲタクとして行って、気づいたら「アイドルとは何か」を30年ぶんぐらい考えさせられていました。

もちろんこの部分も、仕事じゃないです。ただ見たかっただけです。それでは、また次回。

 

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