増井健仁がビジネス、エンタメ、政治など様々な分野のキーパーソンを迎え、“いま起きていること”と“これからの社会”を多角的に読み解き、新しい視点とヒントを届ける「MEDIAMIXI with interfm」。2026年9月29日放送回は、株式会社BABEL LABEL代表取締役社長の山田久人氏が登場。

日本大学芸術学部映画学科の脚本コースで、のちに日本アカデミー賞を2度受賞することになる藤井道人監督と出会う。大学4年間で「自分は作り手というより、作り手をサポートする側が向いている」と考え、卒業後はCM制作大手のAOI Pro.へ。プロダクションマネージャーとして6〜7年、広告映像の現場でプロデュースワークを学んだ。

その間も藤井らとルームシェアを続け、2010年に発足していたBABEL LABELへ合流。当時は厳しい経営状況にあったが、ジョインから半年ほどで代表に就任する。WebCMとミュージックビデオで実績を積み、2019年の映画『新聞記者』が第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む主要3部門を受賞。2022年公開の『余命10年』は興行収入30億円の大ヒットとなった。

2022年1月、サイバーエージェントの連結子会社としてグループへ参画し、「コンテンツスタジオ」としての体制を強化。2023年にはNetflixと5年間の戦略的パートナーシップを締結。その2作目となるNetflixシリーズ「イクサガミ」では、岡田准一が主演・プロデューサーを務め、BABEL LABELからは藤井道人と山口健人が監督として参加した。

「うちの監督に仕事をさせてください」。そう言って回っていた頃から、世界190以上の国と地域への配信を射程に入れるまで。山田氏が、クリエイターに作りたくないものを作らせないという信念、サイバーエージェントとNetflixの両方に自分から持ちかけた理由、そして日本のコンテンツスタジオが世界と肩を並べる条件までを語った放送のハイライトをお届けする。

クリエイティブな仕事に持っていた危機感

今回、ゲストに訪れたのは株式会社BABEL LABEL代表取締役社長、山田久人。日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、主要部門での受賞が話題となった『新聞記者』などを手がけるコンテンツスタジオだ。藤井道人監督らとは、大学の同級生だったという山田は、もともと広告映像制作をコアビジネスとするAOI Pro.に入社。その後、BABEL LABELに正式にジョインした経緯、立て直しについて探った。

増井「山田さんがジョインされた時のBABEL LABELって、会社としては厳しい状態にあったそうですが、厳しい状態にある会社にジョインするのって、勇気がいるのではないかと思うんですけど、このへんはどういうジャッジをしたのでしょうか?」

山田「当時CM制作会社から独立してフリーランスならまだしも、会社を立てて自分でやっていきますみたいな人っていなかったので、かなり止められました。仕事があるからそっちに行くわっていうテンション感では全然なかったですね」

増井「山田さん的には仲間のクリエイターが集まっている会社をでかくしてやるぞという思いで入ったのでしょうか?」

山田「業界として新しい展開を作らないと、クリエイターのクリエイティブ性や、いい作り方が、なくなっていくっていうような危機感を感じていたのと、自分自身もそこの中の仕事、クリエイティブな仕事なはずなのに、あまりクリエイターのクリエイティブな要素を引き上げれないようなところに居続けることに対しての危機感を感じていたっていうのが、感覚としてはあったかもしれないです」

増井「ジョインされた時って、会社が厳しい経営状況にあったって。そこから、入社されて半年ぐらいで社長になるっていう決断されると思うんですけど、感覚的にはクリエイターをちゃんと育てていこうという感覚がありながらも、会社を経営しなきゃいけないじゃないですか。経営の観点でいくと、この会社をやれると思った一番のポイントって何だったんですか?」

山田「それでいうと、藤井道人並びに周りの監督、クリエイターとしての能力値なんですけど、それってただのお前の感覚じゃんってなるかもしれないんですけど、それだけじゃなくて。時代の流れがミュージックビデオだったり、CMがみんなフィルムで撮ってた時代から一眼レフで、すごくかっこよく映像が撮れるようになった転換期を迎えてたんですよ。プロデュースの勉強を大手でやっていた時に、CMでかけていた予算間のクリエイティブと、周りのクリエイターたちが作ってるクリエイティブのレベルが、予算が倍ぐらい違っても、そんなに変わらないものを作れるなというのが感覚的にはあって」

増井「なるほど」

山田「とはいえって思われてた時代だったのですが、ここは逆にチャンスだなと思ったのもありました」

増井「会社経営をするってことは、クリエイターは作りたいもの作りたいから、できるだけお金も使いたい。経営者はお金を出さなきゃいけないみたいなところでいうと、クリエイターは武器として山田さんが見渡して、会社には、これだけのクリエイターいるなと。あとはここに仕事を取ってこれれば回せるなと思った中で、利益を出す会社にしなきゃいけないっていう時が来たと思うんですけど、この辺はクリエイターの皆さんと意見の相違があった時はないですか?」

山田「もちろんありますね。今もずっとですけど、いつも気にしていることがそこなんですけど、やっぱり監督一人一人に作りたくないものを作らせたくないっていうのが、自分の信念なんです。それは会社の代表になってからずっと変わらないので、これをやれっていうのは、どんどんなくなっていってます」

増井「最初の立て直しというか、立ち上げに近いですよね、もはや。その時に仕事を取ってこないと、いわゆるこの制作費は受託できないじゃないですか。かといってクリエイターはやりたいことがあるってなった時に、最初の頃、その仕事ってどうやって作ったんですか?」

山田「最初の頃はWebCMとミュージックビデオで、自分がまだまだラインプロデューサーをやれたので自分がプロデューサーやるので、そこの責任はしっかりと取るということで仕事をいただいてました。“うちの監督に仕事をさせてください”っていう形で仕事をもらってました。しかも予算が少なめのもので、ちゃんと高品質を出すという、そういう会社のブランディングで、安めだけど、この監督はすごいいいものを上げてくるんですっていう、僕が一緒に作品を作って実証したっていうタイミングの時期はありましたね」

増井「初期の頃は、主にどんな映像のジャンルの制作が多かったんですか?」

山田「僕がCM上がりだったので、当時出てきた少し長尺なストーリーもののWebCMが多かったです」

増井「その辺の長尺もののWebCMは、うちできますよっていうのは、どこに売り込んだんですか?」

山田「CMの制作会社、もともといたAOI Pro.だったりとか、その並びの大手の制作会社とか、そういうプロデューサーさんたちに。機材が進化してきたことによって、広告の予算感が下がってきた時期だったんですよ。尺は伸びていくのに。その時に、ちょっと予算感が狂い始めた時に、これは自分たちでお願いするより、もっと安価で頼める制作会社に頼みたいっていうような時代があったので、その時の時代のずれのうねりというか、そういうところを狙って制作会社さんと仕事することが多かったですね」

(中略)

増井「最初はCMとか、Webの広告的なところも含めて受注していった中で、ご自身たちがコンテンツスタジオになるために作品を放たなきゃいけないよねっていう判断ができたのは、山田さんは社長になられてからどれぐらいなんですか?」

山田「5、6年経ちましたね。その間にコロナがあったのが大きなタイミングでしたが、そこのタイミングでいろいろ考えて、世界の市場と日本のドラマ、映画の環境を感じて決断したっていう形でした」

増井「もともと社長をやられ始めた時から、イメージとして、受託して仕事をこなす制作会社として終わらないぞってのがあったってことですね?」

山田「そうですね。映画やドラマを作っている監督陣たちを、もっともっと業界の中で有名にしてあげたいっていうことの流れからすると。自分たちでこのコンテンツを生み出す会社になりたいっていうのは、言語化できていませんでしたけど、ぼんやりとはあったんだと思います」

サイバーエージェントグループ、Netflixとの提携の裏側を語る

番組の後半、話題は2022年にサイバーエージェントグループに参画したことや、2023年のNetflixとの5年にわたる戦略的パートナーシップについて。実際に手を組んだことには、どんな意図があったのか、はたまた手を組んでみて感じることは何かということを増井は問いかけた。

増井「話が前後しちゃうかもしれませんが、BABEL LABELといえば、2022年にサイバーエージェントグループに参画して、これが一番びっくりしたんですよ。理由は2つあって、1つはそのBABEL LABEL側から見た時に、サイバーエージェント側に参画するっていう観点、それから反対側で今度サイバーエージェントグループ側がなぜこのコンテンツスタジオを持とうとしているのかっていう観点。これきっかけって何だったんですか?」

山田「よく“え、そうなの?”って言われるんですけど、これ我々から相談しに行ってるんです」

増井「おお、そうなんだ」

山田「自分たちからグループに入りさせてもらえないですかっていう相談をしに行って、こういう形になっているので」

増井「僕、勝手にABEMAさんが放送始めたから制作会社が必要だっていうんで取りに行ったのかと思ってました」

山田「逆にそういう観点もあるかなと思って、自分たちから動いてるのもあるんですけどね。でも、それでいうと、我々から仲間に入れませんかって話をさせてもらった時に、藤田さんは映画を見られている方なんで、そういう形でサポートできるんだったらぜひぜひって話をされましたが、すぐに“でも自分たちの名前出すと、BABELの足を引っ張っちゃうかもしれないから、うちの名前出さない方がいいよ”って言ってくださったんです」

増井「え?」

山田「我々は逆にそんなこと言ってもらってありがたいんですけど、サイバーエージェントの名前をちゃんと出して、一緒に世界に挑戦しに行きたいんで、むしろお願いしますって話をしに行ったら、今度は藤田さんから“わかりました。その代わり、サイバーエージェントとかABEMAの仕事に関しては、選択肢の一つとしてはあってもいいけど、絶対にやらなきゃいけないなんて思わないでください。狙いはBABELの作品が世界で活躍することなんで”っていう話をしてくださって、一緒にやらせていただくことになりました。そういう意味でいうと、このコンテンツスタジオとして入っていく中で、あまりしがらみを感じたことはないかなと思いますね」

増井「2022年は、映画『余命10年』が興行収入30億円記録する大ヒットしたタイミングで、サイバーエージェントグループに入ったというのもあって、コンテンツスタジオとしてすごく順調に見えてたから、グループインする目的が何かなと思っていたんですけど、今お話伺ったらなんとなく少し見えてきました。サイバーエージェントさんと組みたいと思った理由は何だったんですか?」

山田「まず最初に自分たちの危機感から入るんですね。現状の危機感として、日本の制作システムの制作会社って形になったときに、このままどんどんと制作費の予算を抑えられていって、隣の韓国は10倍以上で作ってるっていうような流れがあったので。で、韓国を見るとコンテンツスタジオという形で戦っている。そういう時に、自分たちがどんなにお金を違うところで稼いで頑張って、予算が少ないながらに高品質のものを作ろうという努力をしても、正直戦えないなと思ったんですよ、世界では。その中でいうと、もっとコンテンツを世界に売りに行けるっていうような領域にチャンスを広げるっていう会社と一緒に組みたい。その上で、自分たちのコンテンツを信じてくれる、コンテンツに対して挑戦してる会社と一緒になりたいなっていうような気持ちがあって。(中略)それでABEMAの挑戦って、僕自身すごく背中を押されるタイミングがいっぱいあって、ものすごいことやってるなって思ってたんです。で、うちの藤井道人が鈴木おさむさんと「会社は学校じゃねえんだよ」を持ち込ませてもらってるんですけど、そういう流れもあり、我々としては一緒にやりたいなっていうような信頼できる会社さんだったんで、ご相談に来ました」

(中略)

増井「その後、もう一発、僕たちを驚かせたのが2023年のNetflixと5年にわたる戦略的パートナーシップだと思います。なぜこれができることになったんですか? 冒頭で伺ったコンテンツスタジオという文化が、そもそも日本にないから。でも韓国でも、それからアメリカでも起きてるじゃないですか。ある種日本では初めてに近いというか、この作品で受託したとか、一緒に企画を考えたというよりは、まずBABEL LABELとNetflixが一緒にものを作るんだって発表だったわけじゃないですか。これはどういうきっかけでできたんですか?」

山田「これもまた驚きですけど、自分たちから言ってるんですよ」

増井「僕たちがもうすげえって顎外されたのがNetflixシリーズの「イクサガミ」で大ヒットコンテンツになりましたけど、岡田准一さんが主演とプロデューサーとを務められてますけど、BABEL LABELさんからも、監督・脚本で藤井道人さんと山口健人さん参加されてます。このいわゆる日本発の作品を、世界190以上の国と地域に届けていくっていうところで、いわゆる世界配信前提の大型作品だったと思うんですけど、やられてみていかがでした?」

山田「規模感がとんでもないスケールができているので、今の時代で言うとNetflixさんしか、Netflixさんもコンテンツスタジオとしてですけど、やっぱりこのコンテンツスタジオを代表とするだけある作品のスケールだなっていうのに驚かされました」

増井「仕事してみないとわからない実体験的なところの収穫ってあるじゃないですか。一番の収穫は何でした?」

山田「一緒に作品作らせていただいて、企画作りも一緒に考える中で特に感じたのは、今まで我々のドラマの視聴環境ってテレビドラマだったと思うんですけど、配信のドラマを作る上で、同じドラマでも全くもって違うんですよ。それはリサーチとかマーケとかの意味合いで。Netflixさんは自分たちの作品がおもしろくなかったら離脱されちゃうっていう危機感を持ってしっかりと企画作られてるっていう感覚があって、テレビドラマがその危機感ないとは言わないんですけど、ただテレビドラマって毎週見るっていう習慣が、今までの営業努力含めあられると思うんで、やっぱりそれと違ってスマホで見るものとして、一つ一つ飽きさせない、飽きたらもうすぐ閉じられちゃうって感覚を持っているので、毎秒おもしろく、ちゃんとするというか、そういう危機意識を持って作るっていうのは配信ドラマのすごい大事なところなんだなと。ものを作る人間としての向き合いを感じました」

増井「広告にもしかしたら近いんですかね」

山田「近いと思います。本当に広告業界にいたんで思うんですけど、やっぱりその作る前にみんながしっかりとどういうものを作るのかっていうのを把握して、Netflixの皆さんとちゃんと向き合うって当然やられてますし、かなり近いかなと思いますね」

どこまで行ったら日本の代表だと思える?

常にチャレンジングな姿勢を貫いているBABEL LABELは、今後、どのような世界を目指しているのだろうか。最後に増井は「どこまで行ったら、日本の代表と思えるのか?」と聞いた。

増井「世界に一番近いコンテンツスタジオが、今、日本においてはBABEL LABELだと思うんですけど、山田さんは、どこまで行ったら世界に自分たちが届いて、日本の代表となれたっていう状態だと思える日が来ると思いますか?」

山田「まだまだなれていないので、難しいんですけど、近い将来に制作者サイドが、もっと作品の予算感を決めれる時代っていうのが、世界水準で来るとは思うんですよ。今、韓国との予算が倍違うんだってなった時に、それぐらいの予算をかけないと世界規模で戦えないからっていうのが、近くなってくると思うんです。ただそれが始まれば、“この作品、海外でもみんなから見られてるらしいよ”みたいな形の話題になれば、世界で肩を並べる形にはなると思います。まだ日本のシステムで制作しちゃっている環境ではあると思うので、そこのところまで行ければ、そこからはかなり話が早くなっていくのかなと思ってはいるんですけど」

増井「世界的に見ても当たり前の話になっちゃってますけど、映像作品を見るというものが、映画しかなかった頃は劇場で見ていて、それが電波事業でテレビに変わり、今はもうインターネット上で、アプリ上で見るように、見る側が自分の環境で見れる状態になっちゃったと。好きな時間に。そうなった時に映像の世界も、直販が来るようになるし、実際きているし、よりそれが進んでいくだろうってことですよね」

山田「そうですね、本当に。その未来を予測して、もっともっといいものが作れる流れになっていくといいなとは思います」