増井健仁がビジネス、エンタメ、政治など様々な分野のキーパーソンを迎え、“いま起きていること”と“これからの社会”を多角的に読み解き、新しい視点とヒントを届ける「MEDIAMIXI with interfm」。2026年8月4日放送回は、アニメーション監督・演出家でMORIE Inc.代表の森江康太氏が登場。

1985年、島根県松江市生まれ。2006年に東京マルチメディア専門学校を卒業後、トランジスタ・スタジオに所属し、森田修平監督のOVAシリーズ『FREEDOM』にCGアニメーターとして参加。制作後期にはCGアニメーションチーフを務めた。NHKの恐竜プロジェクトなどを経て、2016年に独立しMORIE Inc.を設立。2017年には「映像作家100人」に選出されている。

映画『竜とそばかすの姫』のCGプロデューサー、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のCGIプロデューサー、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』のオープニングタイトルバックなどを担当。ヨルシカの「ノーチラス」「春泥棒」「左右盲」「晴る」をはじめとするミュージックビデオでも監督を務め、アニメーションによるMV表現を牽引してきた。

「僕の印象ではドーピングに近い」。生成AIをそう捉える森江氏が、島根の農家からCGクリエイターへと至った道のり、ヨルシカ「千鳥」のMVでAIを実際に使った場面、そしてこれからこの世界を目指す人へ贈った「AIに触らないことですね」という答えまでを語った放送のハイライトをお届けする。

CGとの出会いとなった幼少期の出来事

細田守監督の『竜とそばかすの姫』や、NHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』のオープニングアニメーションを手がけてきた森江。その仕事は、CGアニメーションと呼ばれるものだ。元は手で描いていた「作画」と呼ばれる領域を、コンピューターグラフィックスを使ってアニメーションにしていく。そのキャリアの原点を探る。

増井「CGアニメーションのクリエイターってそもそもどういう道を辿るとそこに辿り着けるんですか?」

森江「これはですね、僕も分からないですね。そもそも僕、生まれたのが島根県の松江市っていうものすごい田舎なんですよ。実家、農家なんですよ。で、家にパソコンなくて。例えば父親がCGを隣でやってましたとかだったら、幼い頃からそういった環境の影響で……みたいなことがあるかもしれないんですけど、全くそういうのがない中で、自分がCGというものに小学校ぐらいから興味持ったんですよ」

増井「小学校の時に出会うCGって何だったんですか?」

森江「僕が、1985年に生まれて、今41歳なんですけど。1991年がターミネーター2なんですよ。それで、93年がジュラシックパーク。95年がトイストーリー。97年がタイタニックで、99年がマトリックスなんです。たぶん、今言った作品、我々の世代で、1つは絶対見てると思うんですよ。最低でも。それがどんどん出てきて、だから、やっぱ海を渡った向こうのハリウッドで、CGの技術がどんどん技術革新していくのが、田舎にいる自分の目にも飛び込んでくるぐらいやっぱ衝撃的だったんです」

増井「なるほど」

森江「トイストーリーで言うと、今は5をやっていますけど、1の時って、今見るとものすごいレベルが低いんですよ。CGの技術的には。犬が出てくるんですけど、途中って4足歩行するんですけど、もうその歩き方とかめちゃくちゃなんですよね。その当時やってた方には申し訳ないんですけど。なんだけど、作品としてはむちゃくちゃ完成度が高いんで、やっぱ引き込まれるじゃないですか。だから技術的なCGの高さもあれば、演出としてのCG映像が1つ市民権を得るための玄関口だったような作品が並んでるんで、やっぱあれで熱狂したCGクリエイターいっぱいいたんですよね。僕の周りにもいっぱいいたし。僕もその1人だったんで」

増井「(中略)今、森江さんの幼少期の話を伺って、島根の松江から始まって、家にパソコンあったわけじゃないよねってなって、どうやってCGに辿り着こうとしたんですか?」

森江「僕、姉がいて、姉が美容師やってるんですけど、その専門学校に行くんです。で、専門学校ってのがあるんだってのを知って、じゃあCGをやるっていうのは……学校の先生に相談したかちょっと覚えてないんですけど、それは大学とかではできないから(中略)専門学校ってとこなんじゃない? みたいなことを確か言ってくださった方がいたような気もして。3つの専門学校のオープンキャンパスに行って、1つ目2つ目が全然ダメで。ダメかもと思ってたら3つ目がものすごい良い学校で。そこにじゃあもう入学しますって、その場で決めました」

そして、専門学校に進学し、同期との出会いによって、CGを仕事にすることに成功したそう。

増井「3年間専門学校出て、これお仕事に切り替えるっていうのはどういうチャレンジが必要だったんですか?」

森江「そこはですね、僕本当ラッキーで。専門学校の同期で秋元っていう天才がいて。上司とか勤め先はある程度選べるけど、同期だけは選べないっていう僕のちょっと持論で。同級生とか同期だけは、これ運だと思うんですけど、その秋元っていうのは僕と真逆で、幼稚園、小学校から父親が環境整備してくれて、自宅でCG触ってたようなエリートだったんですよ。もうそいつが僕の遥か先を行ってるんですけど、2人で卒業制作みたいなの作り始めたんです。そしたらもう作るのが楽しいからいっつもお互いの家に泊まってずっと朝まで作り倒して。っていうのやってたら2年の終わりぐらいに、先生から“君たち2人はその就職先とか決めてんのか。うちでインターンシップする?”って言われました」

増井「実践だ」

森江「インターンシップで当時僕らまだ19歳とかなのに名刺作って1人でクライアントのとこ打ち合わせ行かせるんですよ。考えられます? 何も分かんないのに、ちょっと行ってきてとかって言われて。作ることも実践でしか経験しないので、もう見よう見まねで先輩に教えてもらった言葉とか言いながらやるんですけど、やっぱ向こうも可愛がってくださって、最初本当いっぱいミスしましたけど今思えば。でも、急に野に放たれてしまって、気づいたらビジネスの流れの中に身を委ねてて。例えば最初見積もりって言葉も分かんないし、請求って言葉も分かんないじゃないですか。でもそこから始めていくみたいな感じで。メールの打ち方も分かんないしみたいな感じでしたけど、今思えば、ありがたかったなとは思いますね」

アニメの世界のAI

番組の後半では、増井が森江にAI時代のCGについて質問を投げかけた。

増井「今、時代の流れ的なところで森江さんに伺ってみたいことが1個あるんですけど、世の中がAIって言っててね、今アニメの世界のAIってどうなってるんですか?」

森江「かなり使い始めてると思いますし、実際僕もついこの間ヨルシカの『千鳥』っていう曲のMVでAIを使っています。ツールとして」

増井「そのAIを使うっていうのはどういう側面で使ってるんですか?」

森江「僕らはですね、ある一部分でAIを使ったんですね。それはAIじゃなきゃ、なかなか難しいところで、ちょっと具体的に言うと、電車に乗ってるっていう景色が出てるんですけど、電車の外の景色っていうのは、例えば実写で撮ると、手前を電柱が横切って、奥の山はそんな動かないじゃないですか。電車の中で。でもこれってCGで作ろうと思うと、その街全体を作んなきゃいけないし、アニメでの美術背景っていうんですけど、その一枚一枚描いていく背景でやろうとすると、全フレームを一枚ずつ描かなきゃいけないという狂気の沙汰になるんですよ」

増井「なるほどね。そうか」

森江「でも例えば僕がAIを見ていた時に、その外の景色を撮影して、基点となるフレームだけを美術背景という形で、例えば100フレームあったら25フレームずつぐらいで4、5枚描いて、あとは間をAIが補完してくれないかっていうことを、ちょっと研究したんですよね。そうしたらできたんですよ。もちろん一発ではできなかったので、そのあとの手直しはうちのスタッフがすごいしてくれましたけど。ツールとしては使ってるっていうところはあるんですよね」

増井「この後は、どういうふうになっていくって予測立ててますか?」

森江「AIって、今たぶんこれを聞いてらっしゃる方も、手の中で映像を作れるようになったじゃないですか。手のひらの中で、誰でも。ちょっとだけプロンプト打ち込めば。で、僕の印象ではドーピングに近いなと思っていて、AIというのは。ちょっと例えが正しいかわからないですけど、例えば大谷さんが160キロを投げるじゃないですか。じゃあ今目の前にドーピングできる何かがあって、僕がそれを打ったら、僕この野球の素人なのに、明日150キロ投げれるようになると思って。で、大谷さんにあとちょっと届かないけど、限りなく近いところまでは行けると。150キロ投げれてる自分が、じゃあここまで来たんだから、大谷さんと同じ160キロ、ラストワンマイルを投げれるように頑張ってみようって言って、160投げれるようになるかっていうと絶対なれないと思うんですよね。それは大谷さんが150まで来たっていう、その道のりを大谷さんは知ってるから150から160までこの10キロをたぶん伸ばせたと思うんですよ。AIでかなりプロの技術力に近いところまでは行けると思うんですよね、技術的には。だけど、足りないというところを誰が補うかっていうと、それはプロじゃないと補えないとは思うんですよね。僕が一番今後起こるだろうなと思ってるのは、160投げれる大谷さんがドーピングをする」

増井「なるほどね」

森江「それによって170キロの世界が開ける。だから今AIを使って映像を作ってる人で、たまにすごいなこれっていうのはちゃんとプロがやってるんですよ。さっきのアニメーションの話に戻りますけど、やっぱ体系的に映像理論だったりとか、レイアウト理論だったりとか、動きの理論だったりとかっていうのを知ってる人が作ると、やっぱ面白いものができるっていうのがちゃんと証明されてて。なんとなくAIやると一億総クリエイター時代みたいになったけど、本当の意味で人が面白いと思うものを作れる人は誰になるかっていうと、それまで150キロを投げるために筋トレしたりとか、走り込みをしたりとか、食事制限をしたりとかっていういろんなことを積み重ねてきた人たちが、それを使う世界に多分新しく突入していくと思うんですよね。僕もAIは使いますし、でもそのAIが最初から170キロ叩き出してくるわけじゃないっていうのもわかってるので、自分にとって必要なドーピングがちゃんと取捨選択できていく時代になっていくだろうなっていう」

増井「ってことは、やっぱりこの今160キロ出せる人たちは、AIには向き合っていかなきゃいけないね。だけど向き合っていくことによって170キロ出せる可能性があるから、結果、その人間の価値というか、クリエイターの価値は失われることはないよね」

森江「と思いますし、新しい世界という意味でいうと、映像のクオリティがどんどん上がるというよりはクリエイターの手数がどんどん増えていくだろうなという気が僕はしてます」

増井「そうすると、クリエイターにとってAIの時代っていうのは恐怖じゃないんだね。むしろ進化なんだね」

森江「だと僕は思いますけどね」

これからCGの世界に入りたい人は?

最後に、増井は森江に、これからアニメーションCGの世界に入りたい人へのメッセージを聞いた。

増井「例えば、これからアニメーションの世界に入りたいとか、CGの世界に入りたい人って、今何を準備するのが一番いいと思いますか?」

森江「AIに触らないことですね」

増井「なるほどね」

森江「みんなチートしたいじゃないですか。めんどくさいし、夜遅くまで努力したくないし、寝たいし、怠けたいしっていう。でもそれと逆行する人がいるから、その人たちがちゃんと光ると思うんですよ。だから自分が映像を作ってての喜びでいうと、さっきみたいに階段をキュッと上がった瞬間に、やっぱ自分だけのご褒美みたいなの感じる瞬間があるんですよね。だからそれを持ってる人が、この誰でもAIというツールを手にした時代の中で、ほんとこの人だけが持ってる能力とか才能とかセンスみたいなものを磨き続けていくことのできる素質のある人が、逆にAI時代では生き残っていくんじゃないかっていうのが、僕はそうであってほしいっていう」

増井「地力つけとけば、AI時代は武器がいっぱいあるから勝てるぞってことですね」

森江「そうです。はい」

増井「武器があるから地力いらないって思ってるとむしろやばいよってことだ」

森江「僕はそう思いますね」