経済産業省がまとめた「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026(案)」に、少し変わった一文が入っている。2029年度に2028年の成績を点検し、かけたお金の割に成果が出ていない分野については、支援の縮小、場合によっては撤退もあり得る、というものだ。
しかも、この文言を入れた狙いを文書は隠していない。「いつ切られるか分からない」と業界が意識すること自体が、企業や金融機関に思い切った投資を促す圧力になる。そう書いてある。
支援策を見直すこと自体は、行政では珍しい話ではない。目新しいのは、分野ごと丸ごと切り捨てる可能性を国の戦略文書に書き、しかもそれを投資を引き出すための揺さぶりとして使うと公言している点だ。
そしてこれをいちばん重く受け止めるべきなのは、ゲーム業界だろう。
20兆円の目標、その6割をゲームが背負う
戦略案は、「2033年に日本のコンテンツが海外で稼ぐ売上を20兆円にする」という目標を掲げる。分野別の内訳は、ゲーム12兆円、アニメ6兆円、マンガ1兆円、音楽0.7兆円、実写0.5兆円。足すと20.5兆円になるが、全体の目標は20兆円だと文書内に断りが入っている。
いずれにせよ、ゲームだけで6割。国内でどれだけ投資するかという目標になると比重はさらに大きく、2033年のゲームは19.0兆円と、5分野を合わせた24.5兆円の8割近くを占める。いずれも上場企業の決算をもとにした推計値だ。
つまり、2029年の点検で問われる成績の大半は、ゲームの数字ということになる。いちばん多く支援を受ける分野が、いちばん大きなリスクを負う形だ。
勝負の場において日本はいちばん弱い市場
戦略案の現状分析は、驚くほど率直だ。
日本のゲームが海外市場で占める割合は12%。このうち家庭用ゲーム機の市場(世界6兆円)では、日本製がおよそ半分を占めている。ところがスマートフォン向け(同18兆円)とPC向け(同7兆円)では、数%にも届かない。だから戦略は「モバイル・PC市場の攻略」を掲げる。
だが、これは楽な道ではない。日本がすでに半分を押さえている家庭用機の市場は、6兆円しかない。伸びしろは限られている。海外売上を3.4兆円から12兆円へ、8.6兆円積み増すのであれば、そのほとんどはスマホとPCから取ってくるしかない。得意分野を伸ばすのではなく、「苦手分野をひっくり返せ」という話である。
しかも足場は他国のものだ。ゲームを作る土台になるソフト、いわゆるゲームエンジンは63%が米国製で、自社製は17%にとどまる。ゲーム機そのものは日本企業が世界の約8割を供給しているのに、スマホやPCでゲームを届ける売り場、つまりアプリストアや配信サービスは米国企業がほぼ握っている。作る道具も売り場も他国から借りたまま、その市場で勝てというのが、この計画の中身だ。「開発基盤の国産化」も掲げてはいるが、残り時間は7年しかない。
クールジャパンが残したもの
なぜ「撤退」という言葉が入ったのか。手がかりは、クールジャパン政策の後始末にある。
官民でつくった投資会社である海外需要開拓支援機構、通称クールジャパン機構は、2025年度に累積の損失が540億円に達した。経産省はいま、何が悪かったのかを調べる検討会を立ち上げている。原因の分析はこれからだが、やめる基準を先に決めておくという今回の設計に、この経験が影を落としていると見ることはできる。
実際、縮小はもう始まっている。2025年版の計画がゲーム分野に掲げていた、eスポーツの国際大会で日本のタイトルが採用されるよう環境を整えるという項目は、今回の改定で経産省の仕事としては終了とされた。「民間で取り組める段階に来た」という理由である。
ただし、国が手を引くことと、産業がひとり立ちすることは別の話だ。補助金を前提に何年もかけて組んだ開発チーム、そのために採用した人、その現場で身についたはずの技術。支援が打ち切られると、それらは行き場を失う。制度の側は「効果が薄かったので縮小しました」で済むかもしれないが、現場では一度散った人と技術は簡単には戻らない。
「支えられる」とは「値踏みされる」ということ
ゲームは長いあいだ、国の産業政策の主役ではなかった。補助金の対象にはなっていたが、国が前面に出るのは年齢制限の表示や依存症対策といった場面で、世界での地位は基本的に民間が自力で築いてきた。その産業が、2024年からの一連の政策で、国家目標の中心に据えられている。
支援の対象になるとは、評価の対象になるということだ。そして評価されるとは、見限られる可能性を引き受けるということでもある。20兆円という数字の華やかさよりも、その脇に小さく置かれた「撤退」の二文字のほうが、この戦略の性格をよく表している。














