ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は10月1日(米国時間)、通常のPS5向けのAIアップスケーリング技術「クイックスペクトルスーパーレゾリューション(QSSR)」を発表した。
最初の対応作品は『Marvel’s Wolverine』と『Ghost of Yōtei』の2本。日本時間10月2日に配信されたパッチにより、グラフィック設定の選択肢としてQSSRが加わった。
そもそも「アップスケーリング」とは、ゲーム映像をいったん低めの解像度で描き、それを高い解像度へ引き伸ばして表示する技術だ。最初から4Kで描くより処理が軽く済むため、浮いた性能をフレームレートや光の表現に回せる。ただ、単純に引き伸ばすだけでは輪郭がぼやけたり、細かな模様がちらついたりしやすい。そこでAIに本来あるべき細部を推定させ、補いながら拡大するのがAIアップスケーリングだ。
なぜ通常のPS5では使えなかったのか
PlayStationでこの技術を最初に導入したのは、2024年11月発売の上位モデル・PS5 Proだ。同機は「PSSR(プレイステーション スペクトルスーパーレゾリューション)」を搭載し、2026年3月には改良版も配信された。
ただしPSSRは、AI処理に適したProの専用ハードウェアを前提としている。SIEは公式ブログで、「計算負荷の大きさゆえに通常のPS5で同じ体験を実現するのは不可能だった」と説明している。
そうした技術の壁を越えたのがQSSRだ。SIEによれば、AIのニューラルネットワーク(神経回路網)の構造を効率化したうえで、PS5の性能を最大限引き出せるよう実装を最適化したという。その結果、映像の細部の精細さと、ちらつきを抑える安定性の両面で改善が得られるとしている。
同技術の土台となったのは、SIEが2024年12月に明らかにしたAMDとの共同プロジェクト「Project Amethyst」である。AIグラフィックス技術を両社で磨く取り組みで、PS5 Pro向けの改良版PSSRにもその成果が反映されている。
タダで画質が上がる魔法ではない
とはいえ、ノーリスクで画質向上のメリットを享受できるわけではない。海外の技術検証メディア「Digital Foundry」の計測では、『Wolverine』で864pの映像を1440pへ拡大する際、同作がもともと備えていたアップスケーラーに比べて、1フレームあたり1.5〜1.8ミリ秒の処理時間が上乗せされた。4K出力ではおよそ4.4ミリ秒に膨らむため、通常のPS5では1440p前後が現実的な落としどころだと分析されている。
一方で、描画解像度を自動で下げて負荷を吸収すれば、フレームレートをほぼ保ったまま画質を高められることも確認された。この効果は作品によって差があり、もともと画質の良い『Ghost of Yōtei』では改善幅が控えめだったという。SIE自身も、最上位の技術は引き続きPS5 ProのPSSRだと位置づけている。
それでも、QSSRが通常のPS5でも利用できるようになった意味は大きい。2026年4月の価格改定後、PS5 Proの希望小売価格は13万7980円で、ディスクドライブ搭載の通常モデル(9万7980円)より4万円、「デジタル・エディション 日本語専用」(5万5000円)より8万円以上高い。上位モデルに手を伸ばさない多くのユーザーでも、AI技術による画質向上の恩恵が受けられるようになったからだ。
AI超解像はゲーム機の「標準装備」へ
こうしたAIアップスケーリングは、すでにゲーム機の競争軸になりつつある。2025年6月発売のNintendo Switch 2は、AI処理用の回路を備えたNVIDIA製プロセッサーを採用し、同社の超解像技術「DLSS」に対応した。PCでも、NVIDIAのDLSSに加え、AMDが最新版「FSR 4」でAIを取り入れるなど、AI超解像は画質と快適さを両立する手段として定着しつつある。
SIEはQSSRを、PlayStation向けに開発するすべての開発者へ広く提供する方針だ。対応作品がどこまで広がるかによって、発売から6年目を迎えた通常のPS5の「見え方」は変わっていくだろう。
ハードを買い替えずに、ソフトウェアで映像を磨く。QSSRは、ゲーム機の寿命の延ばし方そのものを示している。














