俳優・山田孝之がメインパートナーとして審査にも参加する公開オーディション「THE OPEN CALL」のプロジェクト報告会見が9月18日、東京・シティホール&ギャラリー五反田で開かれた。15歳以上であれば演技経験、実績、性別、国籍を問わないこのオーディションには、今年2月2日から約2か月間の募集に約1万4000人が応募。あれから約7か月、候補者とともに「俳優とは何か」を探求しながら審査は続き、いよいよオリジナル映画の制作が動き出す。

登壇したのは、企画・プロデュースの伊藤主税プロデューサー、同じく企画・プロデュースを担いパートナーを務める俳優の阿部進之介、オリジナル映画の脚本・監督を務める榊原有佑監督、オリジナル映画の企画監修を務める山田兼司プロデューサー、そしてメインパートナーの山田孝之。オーディションの過程を追った番組『THE OPEN CALL -MAIN PARTNER 山田孝之-』は、10月1日よりLeminoで独占配信される。

「僕らは挑戦はしてないんですよね」

このプロジェクトの面白さはどこにあるか、と司会に問われた山田孝之の答えは、質問の前提を外すところから始まった。「僕らは挑戦はしてないんですよね」。挑戦する場が少ないから場をひとつ作った、それだけだという。挑戦しているのは「候補者」と呼ばれる俳優たちのほうだ、と立ち位置を切り分けた。

その場づくりの発端は、阿部の実感にある。「自分は今44歳ですが、年齢が上がるにつれてオーディションの機会が減っていくという体感がありました。小さい役はあっても、大きな役を掴み取るチャンスがなかなかない」。それは自分に限らず周囲を見ていても同じで、機会そのものを増やせば才能が見つかるのではないか、という発想が出発点だったと説明した。

企画・プロデュース・パートナー 阿部 進之介

ただ、阿部にはもうひとつ引っかかりがあった。オーディション番組といえば、音楽の分野ならグループ加入やデビューがゴールになる。映画でそれをやれば、当然「合格者は映画に出る」という話になるが、その俳優が用意された役に合うとは限らない。ならばオーディションの過程で役をその人に合わせて作っていこうと。その発想が、このプロジェクトの骨格になっている。

「説明ができないんですよ。だから見てもらうしかない」

審査でどこを見ているのかを重ねて問われた山田孝之は、一度「本当にお芝居を見ているだけですけどね」とかわしたあと、こう続けた。「これが、説明ができないんですよ。なので、見てもらうしかないということで、この番組にしたんですよね」。

メインパートナー 山田 孝之

山田孝之が番組という形式を選んだ理由は、この一点にある。俳優という仕事の中身がほとんど知られていないという前提から、話は組み立てられている。役作りの過程が見えなければ、演技の良し悪しを判断する基準そのものが共有されない。「韓国の俳優は」などといった外との比較についても、比較する前に中のことを分かっているのか、という疑問があったという。だからこそ映画とは何か、俳優とは何か、役を作るとはどういうことかを可視化し、言語化して見せることで、受け手の理解を深めてもらいたいと語る。

役に人を合わせるのではなく、人に役を合わせる

通常、映画のオーディションは決められた役に合う俳優を探す。「THE OPEN CALL」はそれを反転させた。「映画のオーディションをやっても役に合わなかったらダメじゃないかと思った。だったらその過程で、その人に合わせた映画をつくろうというムチャぶりをしたのが僕です」と阿部は振り返る。

そのムチャぶりを受け止める側にいるのが、企画監修の山田兼司プロデューサーだ。20年近く映画をプロデュースしてきたが、この作り方は人生で初めてだという。それでも山田兼司プロデューサーは、映画には作り方の正解も、映画そのものの正解もないと言い切る。山田孝之が「お芝居に正解がない」という姿勢でオーディションに向き合っているのと同じことだ、と。世界の映画史はあらゆる作家が自分の信じる作り方をゼロから発明してきた集積であり、今回もまた「こういう作り方もあり得る」と証明できる作品になってほしい、と期待を語った。

企画監修 山田 兼司 プロデューサー

榊原監督も、これまで俳優から役作りの話を聞いて分かったつもりになっていたが、候補者が役と出会い、一体になっていく過程を目の前で見たことで認識が変わったと話す。「なるほど、こういうことか」と思った直後に「いや、こういう考え方もあるよな」となり、分かったと思えばまた分からなくなる。その反復の中で、映画作りも俳優との接し方も、脚本の作り方も一から考え直したくなったという。

伊藤プロデューサーは、3年にわたる長期プロジェクトをメディアが熱心に追い続けていることで、業界内外から大きな反響を呼んでいることを受け、最も大きな反響は自分の内側にあると語る。約1万4000人の思いを受けて映画を作る。「反響と、自分の中の反響と戦っていく」。言い直しながら絞り出したその言葉に、司会が「すごく伝わったと思います」と応じると、「それぐらい責任感を持ってやらせていただいてます」と続けた。

「向き合って初めて白紙になりました」

では現時点で映画の方向性は見えているのか。山田兼司プロデューサーの答えは明快だった。「向き合って初めて白紙になりました。はい、真っ白でございます」。審査に加わったタイミングで候補者たちのエネルギーと、彼らが歩んできた人生の総量を目の当たりにし、それをどう映画という形に昇華させるべきかを考えた結果、構想が一度ゼロに戻ったのだという。「映画の神様がいるとしたら、横で『お前頭真っ白になっただろ』って笑われた気がして」と振り返った。

榊原監督も同様だ。審査の中で発見したことや心が動いた瞬間を書きためており、物語の形もいくつか試してはいる。それでも一度白紙に戻し、最終合格者が決まってから一気に動き出すことになるだろうと語った。

脚本・監督 榊原 有佑 監督

ただし、この「白紙」は空白ではない。山田兼司プロデューサーは補足した。「豊かな多様性と可能性のある白紙です」。無限の可能性が周囲にあるからこそ白紙にできるのであって、「本当に何も考えてないわけじゃないです」。何も決まっていないことこそが、このプロジェクトの現在地である。

海外展開について問われた山田兼司プロデューサーは、「最初から『世界を狙う』というより、まずは半径5メートルの身近な物語をつむぐ」という立場を示した。日本に生きる自分たちが何を語ろうとしているのかを深く掘っていけば、その先に地下水脈のようなものがあり、それが結果として世界につながる。世界はその順番の後にある、という考え方だ。

1万4000人から32人へ、そして「エピソード0」

審査の実像も語られた。約1万4000人はまず約200名に絞られ、そこからは対面審査に移った。そして三次審査の時点で、候補者は32名。会見では、この32名のプロフィール資料が報道陣にも配布された。

榊原監督は、第一印象から審査を経て評価が変わった候補者も少なくなかったと明かす。それは審査する側が見ていなかった面かもしれない、と。そのうえで選考の苦しさを率直に語った。「32名に絞り込む作業は本当にしんどかったけど、そういう中で選ばれた32名なので。番組には彼らの魅力が映し出されていると思う」。

その「絞り込まれた側」を映すために生まれたのが、10月1日の本編配信に先立って9月下旬に無料配信される「エピソード0」だ。山田孝之によれば、これは企画段階には存在しなかった回である。山田孝之は「対面審査をやっていく中で、キャラクターがいい人もいるし、素晴らしいお芝居をする人もたくさんいました。僕自身、圧倒的なファンになった人もいたんです。中には審査の過程で落ちてしまった人もいますが、脚本が完成したら別の役もある。何かあの人にハマる役はないだろうかと思っているので、それこそが番組にした意味があるなと思う。この32人に残れなかったけど、ファンが付く人だっているなと思って。そういうこともあって、彼らを輝かせたいなという思いがあり、エピソード0として配信することにしました」と語った。

制作側の会議では、視聴者にとっての見やすさが常に議題になっていたという。人数が多すぎる初期審査を番組にするのは難しいが、1万4000人から「いきなり32人は唐突だろう」。そうした議論の末に着地したエピソード0は、本編より客観的な作りになっており、導入として見やすいと山田孝之は勧める。

撮影2027年、公開2028年 前橋市と組む制作のエコシステム

決定事項として発表されたのは、撮影が2027年、公開が2028年という日程だ。そして舞台となるのが群馬県前橋市である。会見では小川晶市長からのビデオメッセージが上映され、赤城山や利根川をはじめとする自然、街中の風景、そこに暮らす人たちの温かさに触れたうえで、地域の若者や学生が撮影現場のサポート、SNSでの発信、イベント運営など様々な形で関わることが紹介された。「これは前橋から始まる新しい挑戦。皆さんと一緒に、この映画を盛り上げていきたいと思います」。

企画・プロデュース 伊藤 主税 プロデューサー

前橋は単なるロケ地ではない。伊藤プロデューサーによれば、阿部や山田孝之らが手掛けてきた短編映画プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」(ミラーライアー・フィルムズ)では東京以外の各地で映画を撮り、その地域に官・民・学の実行委員会というコミュニティを必ず組成してきた。「人の縁とかつながりを残しながら映画を作っている」ことが、彼らの大きな特徴だという。

今回もその手法を拡張する。制作、プロモーション、食事、グッズ開発といった映画制作のプロセスをオープンにして部会化し、市内の約5つの大学・学校の学生がそれぞれの部会に入る。制作側の大人がメンターとして指導にあたり、すでに実行委員会の組成と学生向けの勉強会が重ねられている。資金面でも実行委員会を軸にふるさと納税や協賛、出資などを多方面から集め、地域やクリエイターへしかるべき形で収益を還元することを目標に掲げる。映画を撮るだけでなく、その体制と収益の還元先まで含めて地域に残すという考え方だ。

伊藤プロデューサーによれば、前橋の人たちからは「合格者だけではなくて、その1万4000人の思いを受け取った体制を前橋で整えたい」という言葉が寄せられているという。協賛企業についても「ただのご協賛寄付とかではなくて、仲間としてこのプロジェクトを推進していこうと思っています」とし、「みんなにとって聖地、前橋」になると意気込んだ。

商業とアートの間で、「挑戦する姿勢」を見せる

質疑応答では、この大型プロジェクトに挑戦した意義を問う質問も出た。伊藤プロデューサーは、スタッフや俳優にも眠っている才能がたくさんあって、それを発見できないことは日本の損失だと応じる。決まり事がないのは大変だが、だからこそ自由な発想と対話が生まれるとし、監督や俳優、スタッフの普段は見えない苦労や胆力を目にして、改めてリスペクトが生まれたと語った。

山田兼司プロデューサーは、映画というアートフォームは商業とアートの間で葛藤し続けなければならないものだと前置きする。商業に偏りすぎても良い作品にならず、アートに突き抜ければ観客に届かない。「演じるとは何か」というテーマを深掘りする作り方は、本来なら商業として成立しにくい。だが新しい俳優が誕生する瞬間に立ち会ってもらいながらゼロから映画を作るこのプロジェクトは、注目を集めつつ商業的にも成立させられるかもしれない。映画の生み出し方、成立の仕方に新しい可能性を提示できれば「結構革命的なことになるんじゃないか」と語った。

最後に挨拶した山田孝之は、興行収入や動員も当然考えると断ったうえで、そこが答えではないと強調した。勇気を持ってオーディションに参加した俳優たちは受かるかもしれないし、落ちるかもしれない。それでも一貫して伝えているのは「挑戦することの大事さ」であり、まずはそこが伝わることが大事だと語る。予告映像には感情的になって泣く場面も多いが、本人たちは楽しんでやっているとし、重く構えずエピソード0から見てほしいと呼びかけた。

続いて阿部が「この企画は、作品よりも前に、俳優ありきでいい俳優を見つけるということを重視して考えたものです。演技って、すごく楽しいんですよ。もちろんつらいこと、きついこともありますけど、僕も大好きですし、それを知ってもらいたい。そしてこの番組を通して新たな才能を見つけてほしい。もしかしたらわれわれが知らなかっただけかもしれませんが、この番組を通して成長してくれたらいいなとも思います。そしてその人たちがどういう経緯で、この世の中に解き放たれていくのか、どういう経緯で演技を深めているのかに注目していただけたら」と締めくくった。

番組情報

『THE OPEN CALL -MAIN PARTNER 山田孝之-』
10月1日(木)より独占配信開始
※「エピソード0」は9月下旬に無料配信
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