Credit: 众合千澄影业(无锡)有限公司 Zhonghe Qiancheng Film (Wuxi) Co. , Ltd.

2026年5月、中国の大型連休を制した大ヒットサスペンス映画が、Netflixにやってきた。

映画『消失点 Vanishing Point』は、興行収入2億6400万元を記録し、興行ランキングの1位を獲得。中国の映画レビューサイト「豆瓣」では、公開直後に10点満点中7.7点を記録し、口コミで観客を伸ばした。

累計興行収入は約5億7500万元、2026年の中国映画年間ランキングでも上位に入っている。

今回の配信時評は、以前紹介した『銀河は夢の中に』に続き、いまNetflixで観られる中国映画の最前線に迫りたい。

3つの事件、操作された時系列

『消失点 Vanishing Point』は、ある集合住宅で起こる複数の事件を同時進行で描くサスペンスだ。

中国・重慶の集合住宅「青嵐苑」で、自宅の402号室を出たばかりの幼い少年が忽然と姿を消した。父親の唐宇[タン・ユー]は、防犯カメラにも映ることなく失踪した息子を探す。手がかりは、下階の302号室に住む仲良しの少女・瑩瑩[インイン]だけだった。

同じころ、301号室に住む男・嚴午[ヤン・ウー]は、ギャンブル依存のために借金で首が回らなくなっていた。もはや生活もままならなくなった嚴午だが、年老いた父親が突然死したことで、父の年金を受け取りつづけるため遺体を隠そうと画策する。

また、その301号室を嚴午親子に貸し出していた女性・林雨彤[リン・ユートン]は、ある日の深夜、自宅で眠っている間に何者かに侵入され、暴行を受けた苦しみがいまだ癒えずにいた。兄の協力を受け、林雨彤は犯人を突き止めようとするが。

消えた子ども、隠された遺体、未解決の暴行事件。映画は140分と比較的長尺だが、物語のなかでは3つの事件が同時に展開する。しかも、いくつもの謎がただ絡み合うだけでなく、視点や時系列を複雑かつ巧妙に操作しながら。

「8D都市」重慶で描く都市生活の恐怖

中国の推理小説『海葵(原題)』に基づき、監督・脚本を務めたのは、『僕と幽霊が家族になった件』(2023年)を手がけた程偉豪(チェン・ウェイハオ)。台湾のジャンル映画界でキャリアを築き上げてきた才能による、中国商業映画への本格デビューとなった。

複雑なプロットをそなえる巨大なミステリー映画だが、視覚的に強烈な印象を残すのが、舞台である重慶だ。山と大河の間に都市を構えているため、建物や道路、鉄道が立体的に組み上げられており、「8D都市」との異名さえもつ特殊な街である。

高層住宅が立ち並び、道路や歩道が複雑に入り組み、ときには建物につながっている、まるで近未来のメガシティを思わせる住宅街。監督の程偉豪はこの都市を、高層住宅を見上げたり、上空からドローンで見下ろしたりと、立体感たっぷりに映し出す。人々が暮らす住居の窓が無数に続き、人間の姿が米粒のように小さくなるスケール感だ。

都市の立体構造を活かしたサスペンスといえば、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)で土地の上下関係が経済格差を象徴していたように、それが社会的なイシューにつながっていることも少なくない。

しかし『消失点』が特殊なのは、この空間があくまでも日常であることだ。監督自身、原作小説を読み終えたあと、自宅と同じフロアに並ぶ玄関を眺め、「この扉の向こうで、なにか恐ろしいことが起きているかもしれない」という不安を描きたいと考えたという。

それは中国の重慶以前に、同じく都市圏の人口過密が問題視され、郊外にタワーマンションが林立する台湾にて暮らしている程偉豪自身にとってリアルな都市感覚だったのだろう。一見すると秩序ある空間だが、そこには何も知らない隣人の生活がある。その内部には、恐ろしい悪意や恐怖が横たわっているのかもしれない――。

登場人物は小ぎれいに整頓された空間で、おそらく経済的苦労のあまりない生活を送っている(借金まみれの嚴午を除く)。しかし、決して贅沢を思うままに享受しているわけではない。これは中流階級の庶民たちが、複雑に発展した都市と建築のなかで織りなす、不透明な日常生活のミステリーなのだ。

少年はどこに消えたのか、暴行犯は何者でどこから現れたのか、そして借金まみれの男は父の遺体を自宅に隠しきれるのか――。都市空間に興味を抱いた監督は、その謎解きや真相もとことん空間的に凝った演出で魅せている。

謎解きで考察する社会と都市

こうした「都市」をめぐる恐怖は、程偉豪が早くから取り組んできた主題だ。

長編デビュー作『紅い服の少女 第一章 神隠し』(2015年)は、台湾の都市伝説を映画化したホラーだが、山中の魔物が都市に進出してくる恐怖を描いた。続く『目撃者 闇の中の瞳』(2017年)は、新聞記者がかつて目撃した交通事故を調査するうち、思いがけない事件に巻き込まれるスリラー。『僕と幽霊が家族になった件』も、台北の街を刑事たちが走り回る刑事コメディだった。

なかでも本作につながったと言えるのが、2021年製作の『The Soul: 繋がれる魂』だ。中国・台湾の合作で、中国のSF小説に基づき、2032年の台北を想像したSFサスペンスだったのだ。かたや『消失点』は、現代の重慶をまるで近未来のようなルックで切り取ったミステリーになったのである。

Netflixでは『消失点』だけでなく、『The Soul: 繋がれる魂』と『僕と幽霊が家族になった件』、そのスピンオフドラマ「正港署」(2024年)を視聴できる。程偉豪という監督が中国・台湾を股にかけて手がけてきた都市型サスペンスに触れること――それはある意味、現代社会と都市生活にみられる曖昧さや不透明さを、「謎解き」を通じて考察することでもある。