Billboard JAPANが運営する書籍の総合チャート「Billboard JAPAN Book Charts」。本チャートは紙書籍と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャートだ。総合チャートに加えて文芸や漫画などのジャンル別チャート、発売年別のチャートなど全8種類のチャートが存在。月曜日から日曜日までの各種データをもとに生成されたチャートが翌週木曜日に毎週公開される。この記事では、4月2日に発表された文芸部門のチャートを解説し、その中から2冊をピックアップして紹介する。

実写映画大ヒットの影響か 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下巻が1位2位

今回は3月23日から3月29日までのデータを元に解説する。1位と2位には『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(アンディ・ウィアー著/小野田和子訳)の上下巻がランクイン。本作はライアン・ゴズリング主演で実写映画化され、3月20日に日米同時公開された。”ネタバレ厳禁”のSF作品で、世界的に大ヒット中。作品を観た後に原作を読んで物語の解像度を高めたり、観る前に読んで全体の流れを掴んだり、原作を読む理由はさまざまだが、ヒットを受けて原作にも注目が集まっていることがうかがえる。

前回のチャートと変わらず、「本屋大賞」ノミネート作品のランクインも目立った。「本屋大賞」とは、全国の書店員が最も売りたい本を決める賞で、書店員の投票だけで選ばれることが特徴。ノミネート作が発表されると、毎年SNSなどで大きな盛り上がりを見せている。

3位の『イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ著)、7位の『暁星』(湊かなえ著)15位の『熟柿』(佐藤正午著)、16位の『殺し屋の営業術』(野宮有著)は2026年「本屋大賞」ノミネート作品。5位の『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈著)、8位の『汝、星のごとく』(凪良ゆう著)、19位の『カフネ』(阿部暁子著)は過去の本屋大賞受賞作品だ。

ランキングからわかるように「本屋大賞」の注目度は高い。3月26日には「本屋大賞 公式ファンブック」も発売。歴史や裏話、選考の裏側までを盛り込んだ公式ファンブックが誕生した。「本屋大賞」は4月9日に発表されるため、ノミネート作品は今後も長くランクインすることが予想される。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』生きる力や勇気をもらえるSF作品

今回は第1位、2位の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』と第7位の『暁星』に注目したい。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、2021年にアンディ・ウィアーが発表したSF小説。未知の物質によって太陽に異常が発生し、地球は氷河期に突入しつつあった。ある科学教師は宇宙へ飛び立つことになり、人類を救うミッションに挑む。地球上の全生命滅亡まで30年、人類の命運を賭けた一大プロジェクトに挑む男の奮闘を描く。

物語は、主人公が宇宙で目覚めるところから始まる。記憶を辿ってみても過去のことがなかなか思い出せない。主人公の現在と過去の記憶が混ざり合いながら物語が進むため、だんだんと謎が解けていく感じがおもしろい。読者は彼の過去のことを段階的に知ることになる。専門的な話も登場するため、少々難解に感じる部分もあるかもしれないが、後半に進めば進むほど物語にのめり込んでいく。

主人公が自分の知識を総動員して現状を打破していこうとする姿には痺れた。知識や好奇心がどれだけ人生で大切なものなのか、彼の目線を通して改めて知ることとなった。ピンチに陥ったとき、孤独は何よりも心細く、前向きな気持ちが減ってしまう。しかし逆を言えば『誰か』がいることで、人は前向きになれるものだ。その『誰か』が想定外の存在だったとしても、ひとりよりもずっと強いのだ。本作はSF作品としてスリルがあっておもしろいだけではなく、生きる力や勇気をもらえる物語だ。

『暁星』ノンフィクションとフィクションが交わる時、見える景色は

『暁星』は、2025年に発売された湊かなえによる小説。現役の文部科学大臣で文壇の大御所作家でもある清水義之が全国高校生総合文化祭の式典の最中、舞台袖から飛び出してきた男に刺されて死亡する事件が起きた。男は逮捕されたのち、週刊誌に手記を発表しはじめる。そこには、清水が深く関わっているとされる新興宗教に対する恨みがつづられていた。また、式典に出席していた作家は、永瀬の事件を小説として描く。ノンフィクションとフィクション、ふたつの物語という構成の小説だ。

本作は非常にセンセーショナルな幕開けだ。永瀬の手記から始まる本作は、最初はどこかぼやけた輪郭を持っている。永瀬という人間のことがなかなか掴めないからだ。永瀬の手記が続き、作家の小説、つまり”フィクション”になった時、それまでよりもさらにぐっと作品に引き込まれる。

正直、物語に入り込みすぎて、心臓がぎゅっと掴まれるような苦しい箇所もあった。しかし、本作は決して絶望を描いている話ではない。”イヤミスの女王”とも呼ばれる湊氏だが、この作品は「強い絆」や「希望」、「愛」を感じられる物語でもある。読み進めることが辛いと思う瞬間もあるかもしれないが、最後まで読んだからこそたどり着ける感情がある。読み終わった後は、鳥肌が立ち、少し呆然としてしまった。そしてすぐに頭からもう一度読み返した。この物語は、読み返すことでまたがらりと景色が変わる。

読んでいて辛いと思うことがあるのは、それだけ物語に、登場人物の気持ちに没頭するからだ。湊氏が描く彼らの気持ちは切実すぎてヒリヒリして、胸が締め付けられる。湊氏は本作を「29作目にして一番好きだと断言できる作品です」と語っている。帯にある「ただ、星を守りたかっただけ」。この言葉の真意を知ったとき、心が震える思いがした。