米テキサス州オースティンで開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト) 2026でワールドプレミアを迎えたホラー映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』。Netflixシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』で知られるデイヴ・ボイルが脚本・監督を務め、賀来賢人がプロデューサーとしても参加、さらに『SHOGUN 将軍』で世界的な注目を集めた穂志もえかが主演を務める。物語の主人公は、山奥の洋館に巣食う強力な霊に挑む霊媒師・愛里だ。

賀来とボイルが共同設立した製作会社SIGNAL181の第1作となる本作は、SXSW「ミッドナイター」部門に選出され、3月13日にワールドプレミアを迎えた。22時からの上映にもかかわらず満席の劇場は熱気に包まれ、上映後のQ&Aでも観客から次々と質問が飛んだ。

翌日、オースティンで賀来賢人、穂志もえか、デイヴ・ボイル監督にインタビューを行い、作品への思いやものづくりの哲学について話を聞いた。

(インタビュアー:坂本泉)

プレミア上映に安堵 関係者以外に初めて届いた手応え

──昨日はプレミア上映、おつかれ様でした。そして、おめでとうございます。ご感想はいかがですか。

賀来賢人(以下、賀来):正直、ホッとしました。関係者以外の上映というのは初めてだったので、ちゃんとお客さんに見てもらって、リアクションをいただいて、感想もたくさんの人から聞けて、やっと第一歩を踏み出せたなと。僕はもうとにかくホッとしています。不安になると、いろいろ想像や空想をするじゃないですか。だけどそれが一気に吹き飛んでいったので良かったです。

穂志もえか(以下、穂志):元々、最初にお二人にお会いした時から、世界に向けて作品を作っていくという気概を感じていたし、そのおつもりなんだろうな、と思っていたので、一般のお客さんに初めて見てもらう場がアメリカだったことは、すごく嬉しかったです。目指していた方向に、作品がちゃんと世界へ開いていく感覚がありましたし、何よりお客さんの反応そのものが嬉しかったです。

デイヴ・ボイル(以下、ボイル):とても楽しかったです。観客と一緒に見て、僕も新鮮な気持ちになれました。百回くらい見てきた作品なのに、初めて見る人に近い感覚で体験できた気がしました。

──終わった後もお客さんからたくさん質問をされていましたね。どういった感想がありましたか。

賀来:まず、すごく新鮮だと。ホラーファンからしても新鮮で、音楽のユニークさだったり、キャラクターの深さだったりにもちゃんと気づいてくれていました。僕たちが目標としていたユニークさみたいなものがちゃんと伝わった感覚があったので、一つミッションはクリアできたのかなという感じですね。

──穂志さんは上映後にお客さんからテキサスハットをプレゼントされていましたね。

穂志:お客さんからギフトでいただきました。歓迎されている感じがすごく嬉しかったです。「面白かった」「ありがとう」という言葉も一緒にいただいて、「こっちがありがとうやで」って思いながら(笑)。良質な映画ファンの方たちと会話できたのですごくいい時間でした。

ボイル:一番言われているのは、やっぱり「穂志さんすごいですね!」ということ。あとは「日本には本当にああいう霊媒師っているんですか」という質問ですね。ユニークな髪型だったりするので、「それは僕たちが作っていますよ」と何回も説明したんですけど(笑)。この作品の中で穂志さんがほぼ全シーンに出ているので、観客もそれをすごく喜んでくれているみたいで嬉しいです。

架空の霊媒師がリアルに見える理由

ボイル:架空の設定の霊媒師、実際には存在しない文化の霊媒師という設定なので、それをできるだけリアルに描きたいなとチームとして最初から思っていたんです。いろんなディスカッションをして世界観を固めて、その世界観を逐一説明するのではなく、観客に自然に受け取ってもらえるように作っていきました。アメリカのお客さんが見ると、「こういう霊媒師は普通に日本にいるんだな」という感想が生まれて、まあ嬉しいですよね(笑)。

賀来:もし僕の価値観だけで作ると、それが信じられなくなっちゃうのかもしれないですけど、デイヴのまた違った育ちで違うカルチャーも知っていて、でも日本のカルチャーも知っている人が作っているから、ちょっと信じられる要素があるんだと思うんですよね。だからいつも驚かされます。「そういう見方があるんだ」っていう視点の違いは、すごく面白いですね。

──特に今回、SXSWのミッドナイター部門での上映でしたが、ホラーファンが集まる会場で上映するというのは何か違うものがありましたか。

賀来:僕、お客さんと一緒に自分の映画を見るのは初めてかもしれない。リアクションとして声を出してくれるし、ちゃんと笑ってくれるし、ちょっと舞台に似ているというか。すごく生感があって楽しかったです。日本は割と静かに映画を見なきゃいけないという雰囲気がありますけど、こちらのお客さんは緩急もすごくて、ピリッとなる瞬間の緊張感もちゃんと伝わったので、ちゃんと見てくれているんだなと感じました。

ボイル:僕は正直、緊張していました。ミッドナイター部門は開始が22時とかなので、よく(ミッドナイター部門に)入っている作品はもっと極端なスプラッター系のホラー映画なんです。極端な展開でみんな起きていられるという(笑)。だから僕たちの作品はおとなしすぎるのかなと正直ちょっと思っていましたけど、みんな声に出してリアクションしたり、クスッと笑ったりしていたので、ちゃんと楽しく見てくれているんだなと思って、僕も落ち着きました。

賀来:珍しくデイヴがソワソワしてた(笑)。

ボイル:初めてお客さんに見せる時だけは緊張しますね(笑)。

「ギャンブラー」たちの出会い

──この映画が生まれた経緯を教えてください。

ボイル:死生観のあるストーリーというか、重要なテーマに触れる作品はずっと作りたいと思っていました。割と重いテーマに触れたエンタメを作りたかったんですね。昔からホラーが大好きなんですが、なぜかというと、すごく重いテーマや人間味のあるストーリーを語りつつ、エンターテインメントのパッケージとしてお客さんに見てもらえるからです。

それは監督としてすごくワクワクします。賀来さんと一緒にNetflixの「忍びの家」でちょっと遊び心のあるシリーズを作れてすごく楽しかったですが、今回はちょっと違う角度から見たゴーストストーリーを二人で作りたいなという話になって、それがきっかけですね。

──前回の「忍びの家」は賀来さんが企画を出されて、それにデイヴさんが要素を足していったそうですが。

賀来:足しまくってくれて(笑)。でも、デイヴは最初、脚本家として入る予定だったんです。それを僕が「デイヴが監督じゃないとやりません」と我儘を言って、いろいろありましたけど、デイヴが監督してくれることになった。本当にそのぐらいユニークでアイデアのある脚本だったので、これを撮れる人はこれを書いた人しかいないなと思ったんです。

ボイル:賀来さんはギャンブラーですよ(笑)。好き嫌いがはっきりしていて、「これがいい」と思ったら一生懸命それを実現させる人です。だからそういう人と一緒にものを作るのは、演出家としてはすごくやりやすいんです。自由に作れると感じますし、みんなが狙っている方針から外れないという環境をプロデューサー側が作ってくれる。

穂志:でも、私はデイヴもギャンブラーだと思います(笑)。初めてお会いする前に既にメールで、この愛里という主演の役を私にお願いしたいというオファーがありました。でもまだ受けるか受けないかは決めないで、一旦会ってみるという場を作っていただいたんですけど、その時に私は「いわゆるタレントパワーがそんなにないので、自分の名前だけでお客さんを映画館に呼べないと思う」と率直に伝えました。

そうしたら二人が「何も心配しないでください。大丈夫です。僕たちは本当に面白い脚本と素晴らしいキャストだったら、世界に通じる映画が作れるということを証明したいんです」と言われて。その時に「ギャンブラーですね」と私が言ったのをすごく覚えています(笑)。

タレントの知名度でお客さんを呼ぶという戦略は日本の映画業界にもあると思いますが、そこから外れて「本当にこの人にやってもらいたい」という想いに、ものすごく動かされました。その時はまだ脚本が上がっていなかったのに「はい、やります」と即答して。普通は脚本を読んでから決めるんですけど(笑)、通じる信念を感じたので嬉しかったです。

賀来:ギャンブラーだね(笑)。

──みなさんギャンブラーだったと(笑)。穂志さんをキャスティングされた理由もお伺いしたいのですが。

賀来:『SHOGUN 将軍』だったり他の作品を拝見して、すごく稀有な女優さんだなと。強さを内に秘めていると同時に、脆さみたいなものもすごく体現できる、最近見ない役者さんだなと思っていました。今回愛里という役をデイヴが作ってくれて、すぐ思い浮かんだのが穂志さんで。とりあえず会ってみようとデイヴと会いに行ったら、本当に何でしょうね、緊張されていたのか挙動が変だったんですよ(笑)。それがもう愛里でしかなくて、「もう全てが完璧」って。

ボイル:この役に対しては穂志さんの名前しか出ていないですよ。存在感もあるし、セリフがなくても感情がすごく伝わるお芝居ができる人だという印象もあって。実際に会ったら「この人だ!」と(笑)、帰りながら二人で話していました。

──穂志さん自身は、愛里を演じる上で何が難しかったですか。

穂志:かなり独特なバックグラウンドを持っている人物ですし、ものすごく想像力を要する役でした。見えない世界というか、ベールの向こうの世界のことも、やっぱりたくさん想像しなければいけない。それがディテールが詰まっていれば詰まっているほどリアルに演じられると思ったので、デイヴにとにかく世界観を聞きまくりました。

しつこかったかなと思っているんですけど(笑)。ベールの向こう側で起こったことは現実の世界にどの程度干渉しているのかとか、疑問なくカメラの前に立てるようにというのはすごく意識しました。

SIGNAL181——会社設立は「自然の流れ」

──SIGNAL181を共同設立されたわけですが、共同製作ではなく会社を設立するという決断に至った理由は。

賀来:前の仕事をした現場でもやっぱり趣味がすごく合うし、僕にはないアイデアがいくらでも生まれてくるんですよ。趣味が「脚本を書くこと」みたいな(笑)。休みの日にも「暇だから書いていた」と言うくらい、脚本を書くこと自体が好きな人なんです。別に何に出すわけでもなくて本当にアイデアと物語が大好きな人なんだなって。

こんな人とずっと組んで仕事ができたらどれだけ楽しいんだろうと思って、「一緒にまたやりたいね」という会話の中から「じゃあ、もう会社作っちゃわない?」という話をしたら、デイヴが「いいよ」と言ってくれたので。何の作品を作るか決まっていないのに、とりあえずリリースだけ出しちゃった(笑)。

ボイル:思ったより盛り上がりましたね(笑)。「じゃあ、やらなくちゃ」って(笑)。会社を作る話が出る前から、もう次に何をやろうかという話は何ヶ月もしていたので、会社という話も自然と出てきたんです。やっぱり自由に作りたいと二人とも思っていて、情熱を持った企画を最高のクオリティで作りたいという価値観が似ているからこそ「よし、やろう」となったと思います。僕はアイデアをいっぱい書く人で、年に10本ぐらい台本を書いたりするから溜まっちゃっているんですよ。死ぬまで何本作れるかと寝る前に考えたりする。同じような情熱を持って一緒に作っていける人と出会えて本当に良かったと思います。

賀来:僕の仕事はもうそれを形にするだけです。無理やり実行するという(笑)。

──SXSWという場自体にはどういった印象をお持ちでしたか。

賀来:正直、全然知らなかったです(笑)。でもLAの人に会って「SXSWに招待されたんだ」と言った時のリアクションがすごくて、みんな「いいな、めっちゃ楽しいから」みたいな感じだったので、最初は「そうなんですか」という感じだったのが、後半あたりにはもう「ね、そうなんだよ!」って(笑)。

ボイル:僕はだいぶ前に自主映画を出品したことがあったんですけど、今回は14年ぶりです。フェスティバル自体がすごく大きくなっていて、壮大なイベントになっているなと。アメリカのトップの映画祭に認めてもらえるのは、我々としてすごくありがたいです。

俳優とプロデューサーは「地続き」

──日本の俳優がプロデューサーとして製作会社を持つというのは、まだあまり一般的ではないように思います。

賀来:最近はちょっとずつ増えてきてはいますし、俳優さんが企画から携わるケースも多くなってきてはいます。だんだん馴染んでくるのかなとは思いつつ、同時にやっぱり責任もすごく大きいので、みんなどういう気持ちでやっているのかなという情報共有をもっとしたいんですけどね。まだそういう仲間がいない状況なので、いろんな人にもっと聞きたいし、どうやって面白い作品を作っていけるかという相談もしたいですね。

──俳優としての視点とプロデューサーとしての視点で、摩擦のようなものはありますか。

賀来:摩擦はないですね。どちらかというと延長線上という感じで。俳優は脚本に対しても、自分の意見を持って主張しなければいけない場面が必ずありますし、現場でセリフを変えることもある。だから俳優と監督は地続きじゃないと思っていますが、俳優とプロデューサーは結構地続きのイメージがあります。

ただ、企画をどこに持ち込むかとか、どこで配給・宣伝するかというのは今回初めての経験だったので勉強になりました。それこそ今回SXSWに来て、デイヴの紹介でまた違ったスタジオのプロデューサーとかに会えて、選択肢がバッと広がるじゃないですか。そうするともっと大きいものが作れるかもしれないし、もっと世界に届くような作品が作れるかもしれない。そういうのが楽しいですね。

AIは使わない——手作りのものづくり

──今年のSXSWではAIがテーマの一つにもなっていますが、映像制作の現場ではAIをどう捉えていますか。

ボイル:使っていないです。個人的にはあまり使わない方がいいと正直思っています。クリエイティブなところで使うと権利の問題が出てきますし、「こういう映像が欲しい」と入力して出てくるものは、結局は誰かが作った表現の模倣にとどまるのではないかと思っていて、基本的には使わないと決めています。

──アイデア出しとしても使わない?

賀来:それは、もっとないですね。

穂志:(しみじみと)うわー、信頼できる・・・(笑)。

ボイル:一度打ち合わせの時にいろいろなアイデアを提案されたんですが、どれもAIのアイデアだったんですよ。昔のドラマのモノマネだったり、「これはパクリじゃないですか」というものばかりで。やっぱり自分で考えた方がいいと思います。ツールではあるけれども、何に使うかはかなり気をつけた方がいいなと。

賀来:どちらかと言ったら、AIに関する映画は作るかもしれないですけど。題材として使うかもしれないというぐらいですね(笑)。

──VFXなどのテクノロジーについてはいかがですか。

賀来:VFXは作品によってありだと思います。

穂志:VFXは、ダイナミックさが加わって面白くなることはもちろんあると思うんですけど、今回の作品に関しては規模感や撮り方含めて手作り感があったのが好きでした。スタッフさん全員の顔を毎日見られていたし、風通しの良い素晴らしい環境を作ってくれました。

ボイル:VFXは使っていましたよ。Spade&Coという非常に優秀なCGチームにお願いしました。ただ今回の狙いとしては、やっぱり手作り感というか、目の前に実際に物があって、特に俳優さんがそれを見てリアクションできるような環境で作りたかった。スタッフさんが糸で引っ張ったものを消したり、特殊メイクの修正をしたり。できるだけ現場で撮りきれるようにはしました。時計が逆に動くのも実際に仕掛けを作ってもらって、機械が映り込んだ部分をCGで消すという考え方です。

最初は「全部CGで作り直せばいいじゃないか」と言われたこともあったんですが、やっぱりフェイク感が出てしまう。そして俳優さんが見てどうリアクションするかという環境がすごく大事だと思っていました。グリーンバックの前に立って見えないものだらけという環境は僕は苦手なので、できるだけリアルに作りたいと思いました。

「純度の高いクリエーション」を求めて

──穂志さんは『SHOGUN 将軍』でアワードも受賞されましたが、海外への思いに変化はありますか。

穂志:アワードはあまり関係なくて、ただ『SHOGUN 将軍』での撮影の経験は私にとってものすごい財産になりました。しっかり芝居させてもらえる環境、労働環境も含めて働きやすかったですし、今回のデイヴとのように、『SHOGUN 将軍』でも日々たくさんディスカッションできました。

あの作品は予算が大きかったから余裕があっていろいろなことができたのかもしれませんが、アクターへの寄り添い方とか、各部署へのリスペクトとか、ヘアメイクも含めてみんな対等な感じがあって、ものづくりの水準が高いなと感じたんです。なるべく純度の高いクリエーションができる環境に身を置きたいなと、『SHOGUN 将軍』を経て思いました。

ただ、海外がどうこう、日本がどうこうという基準ではなくて、自分がワクワクしたり、この人たちと組みたいと思えることが最優先事項です。パフォーマンスを120%発揮できる環境は、もしかしたら海外の方が整っている可能性はあるかもしれないですし、そこで得るものがあったら日本に持ち帰りたいとも思います。

──今回のデイヴさんのように、同じ信念を持って作品に向き合える監督と仕事をしていきたいと。

穂志:はい、本当にそうだと思います。彼らには野心みたいなものを感じるんですが、「アワードを取りに行くぞ」ということが念頭にあるわけじゃなくて、本当に自分たちが面白いと思うものを作って、面白いと思うキャストやスタッフと組んで、結果として評価されたらいいねという順番な気がしていて。初めてお会いした時からそう感じたから、一緒にやりたいなと思いました。

──6月の日本公開に向けて、日本の観客にどんなふうに見てほしいですか。

賀来:なるべく敷居を下げて、いろんな人に見ていただきたいですね。単純にエンターテインメントとして作ったエンタメ映画として。デイヴもよく言っていますが、ホラーですけど楽しいホラーという感じで、フラッとデートムービーでもいいですし、そのぐらいの気持ちで見ていただけて、「あれ、面白いよ」ってなってくれたら一番理想ですね。

──本作の公開前ではありますが、次回作のヒントを少しいただけますか。

ボイル:いろいろ作ってますよ(笑)。

賀来:いろいろ(笑)。

穂志:聞いてない・・・(笑)。

賀来:言ってない(笑)。でも、楽しみにしていてください。

 

映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』は2026年6月5日公開予定。海外展開についても今後順次発表されるという。賀来賢人とデイヴ・ボイルが「忍びの家」に続いてタッグを組み、穂志もえかを主演に迎えて放つ”少し違う角度から見たゴーストストーリー”は、日本の観客にどう届くのか。世界を見据える3人の挑戦に注目したい。