2026年3月27日、MIXIは渋谷スクランブルスクエアの本社オフィスにて「MIXI MEETUP!AI DAY 2026」を開催した。

全17本部・23事例にわたるAI活用の実践をセッション形式で公開した本イベントのClosing Sessionでは、取締役 上級執行役員の村瀨龍馬氏が「AIのその先へ」と題した講演を行い、続いてCFO島村恒平氏、CTO吉野純平氏、CDO(チーフデザインオフィサー)横山義之氏を交えたパネルディスカッションが行われた。

「手段を目的にした」──99%のAI浸透を実現した強制力

壇上に立った村瀬氏は、まず会場とオンラインの参加者への感謝を述べた後、MIXIの「AIの現在地」を示した。社員のAI利用率は99.02%。全45部署、グループ会社を含めた全社でAIが「普通」になった状態だという。

「弊社ではもう、AIネイティブかネイティブじゃないかというランク付けは行いません。この先はAIを使ってどれだけ成果を出すか、ものをどれだけ作って出していくか、そこだけに集中しています」

この数字に至る出発点として、村瀬氏は自ら「最悪なこと」をしたと振り返った。エンジニアをはじめ多くのビジネスパーソンが口にする「目的と手段を間違えるな」という鉄則を、あえて破ったのだ。

「全員でAIを使っている状態を”目的”にしました」

その背景にあったのは「AIはスケールしない」という村瀬氏自身の実感だった。どれほどAIの効果を説いても、隣の人に伝播しない。個人の熱量では組織全体は動かない。だからこそ、全員が触るという状態そのものをゴールに据える決断をした。

ただし、単に「触ってみよう」で終わらせないために、仕組みによる強制も同時に行った。全部室長以上のリーダーを「AI施策のリーダー」に任命し、月次で完了した施策と新規追加した施策を報告させた。その結果、AI施策数は1,600件を超えた。さらにROI(投資対効果)の算出も義務化し、時間単価での削減効果や、外注コンサルの内製化による成果を数字で語ることを求めた。

「今日のセッションでも、みんな80%・70%削減とか、嘘だと思うぐらいの数字を出してくれたと思います。見積もりの雰囲気も変わりました。1ヶ月かかっていた工数を3日で終わらせているなら、次からは3日で見積もりましょうと。スタートラインそのものを変えたんです」

質と速さの両立についても、村瀬氏は明確な姿勢を示した。かつてはトレードオフと言われた両者が、AIによって両立可能になったと語る。採用においてもAI利用が前提になりつつあると率直に述べた。

「仕事がなくなる」は見なかったことにする──合意形成、物量、ルール

全社浸透が進むにつれ、新たな課題も顕在化した。村瀬氏が挙げたのは3つのボトルネックだ。

1つ目は合意形成。エンジニアやデザイナーがAIで加速して大量のアウトプットを生み出しても、それを「どのタイミングで、どんな驚きとしてユーザーに届けるか」という線を引く工程で全員の合意を取ろうとすると、途端に速度が落ちる。

「100個、200個作っても、そのうちの1個を吟味するのに時間がかかっていたら、人間がボトルネックになっている。それが現状であり、今まさに変えようとしているところです」

2つ目は物量。100も200も作れるようになった以上、それをどう運用・運営するかの精査が重要になっている。3つ目はルール。データの取り扱いや法務チェックといった社内ルールがネックになりがちだが、MIXIでは法務のチェック期間を「1ヶ月」から「3営業日以内」にまで短縮した。

「私がちょっと強制しちゃったんで、現場の人はヒーヒー言ってますけど」と笑いを誘いつつも、この速度変革こそが99%という数字の裏側にあることを示した。

村瀬氏の講演で最も力がこもったのは、AIによる雇用不安への見解だった。

「『仕事がなくなるんじゃないか』──これは一回、見なかったことにしてください。なぜなら、そんなことを考えている暇があったら、20、30プロダクトを出して世界で売って、外貨を稼いで日本を盛り上げるべきだと思っているからです」

村瀬氏は、AIこそが日本企業にとって世界市場にアピールできる「唯一のチャンス」だと力説した。言語の壁はAIが越えてくれる。制作のタイムラインが短縮されれば、むしろ現地に出向いてユーザー調査を行う余裕が生まれる。時差の壁すらも、AIに自分たちの狙いを覚えさせることで乗り越えられると語った。

「今日もいっぱい聞かれたんですよ。『こんだけAIで削減してきたけど、社員どうなっちゃうんですか?』って。いや、それよりも我々って今、仕事量多くないですか? ただでさえ多いのに、これを省力化して自分が作りたいものに集中できるんだったら、めちゃくちゃいいじゃないですか」

このイベント自体の目的を問われることも多かったという。採用目的なのか、コンサルティング事業の布石なのか。村瀬氏はきっぱりと否定した。

「コンサルは始めません。私はtoCがいっぱいやりたい。作家を愛しているから、作家の出した作品をいっぱい見たいんですよ。ここにいらっしゃる方々も、オンラインの方々も一緒に、もっともっと世界にアピールして出していくと、みんな面白いんじゃないかなと。面白いものをもっと見たいから、今日皆さんを仲間にしたいと思ってここに来ました」

経営の意思決定が変わった──CFO島村氏の実感

パネルディスカッションでは、まずCFOの島村氏がAIによる変化を語った。最も大きかったのは「意思決定にかける思考密度の飛躍的な向上」だという。

経営会議の前日、これまでは資料を読み込んで自分のオピニオンを作るので精いっぱいだった。しかしAI導入後は、CFOとしての視点に加え、「投資家だったらどう思うか」「社外取締役ならどう考えるか」といった複数の人格の意見をAIに生成させ、それとディスカッションしながら自分の意見を形成するプロセスに変わった。

具体的な業務変革として島村氏が挙げたのが、FP&A(Financial Planning & Analysis)部門の事例だ。経理の締め日から取締役会までの3〜4営業日は、従来「デスマーチのような状況」だったが、数字の集計作業と分析作業の8割をAIエージェントで自動化。浮いた時間で事業部との着地見込みの相談や、将来に向けた議論ができるようになった。

人事評価の文化も変わった。社員が上司に提出する自己評価もAIを通すようになり、上司側も過去のワンオンワンのメモを振り返りながら「この評価は妥当か」をAIに確認している。村瀬氏はこの変化をこう表現した。

「みんなの評価が『謙虚』から『ドヤ』に変われた一年でした。自分では見えていなかった実績をAIが拾ってくれるので、自己肯定感が高まった。デザイナーはめちゃくちゃ雄弁になりましたね」

コードの40%がAI生成──CTO吉野氏が示すデータ

CTO吉野氏は、MIXIのGitコミットにおけるAI生成コードの割合を示した。現時点で全コミットの40%がAIエージェントによるもので、この比率は右肩上がりで伸び続けている。

「AIの補助で作っているというよりも、AIがエージェントで作っちゃっているものが40%です」

当初の目標は90%。40%という数字について吉野氏は「私自身の評価はちょっと悲しい」と苦笑したが、全社平均であるがゆえにAI化しやすい領域としづらい領域の差が見えてきたことを次の課題として挙げた。

吉野氏が今後のビジョンとして語ったのは、かつてモンスターストライクの開発を支えた伝説的プログラマーの働き方だった。「良いだろうと思ったら作っちゃう。多分あんまり寝てない。朝持ってきて『ほら、良いだろ』って」──睡眠を削って毎日新しいものを見せに来たその熱量を、AIの時代には健康を犠牲にせずに再現できるはずだと語った。

「自分が作ろうと思ったものを自分でハンドリングして、周りに見せて『これ良くない?』と押していく力が、今改めて求められている。ただし、寝ましょうは前提ですね」

さらに吉野氏は、AIを活用した判断プロセスの整備にも言及した。事業計画にない新しいアイデアが生まれた時、従来は判断者の感情やスケジュールに左右されていた。プロダクトの方向性との整合性、ユーザーサプライズファーストの要素、法的リスクの有無──こうした判断材料をAIに生成させることで、「判断者が休みだから出せません」という状況を解消できるのではないかと提案した。

デザイン浸透率17%→60%──CDO横山氏が語るクリエイティブの変化

CDO横山氏が示したデータは印象的だった。前期17%だったデザイン領域のAI浸透率が、今期は代表的な職能で40〜60%にまで上昇した。評価指針にAIの項目を追加し、「AI中心の目標」を掲げた結果だ。

「『作れるから作る』から『試してから作る』時代が来た」と横山氏は表現する。AI以前のデザイナーは、自分のスキルで実現できる範囲から発想していた。しかしAI導入後は「まずこれとそれとあれを試そう」というプロセスに変わり、試行錯誤の中で「最初はできないと思っていたけど、こうやったらできるかも」という発想の拡張が起きている。

成果面では、タイムラプス動画の制作事例が紹介された。施設の1周年を祝うムービーで、来場者の動きをAIで生成することにより、特殊撮影なしでタイムラプス表現を実現。プライバシーの問題もクリアした。「リアルとバーチャル、CGと実写の垣根が飛び越えやすくなり、できる表現が広がっている」と横山氏は実感を語った。

村瀬氏がデザイナーのAIへの「怖さ」について尋ねると、横山氏は「僕よりは現場のみんな、そんな怖がってないですね。楽しんでいる方が勝っている」と答えた。デザイン作品を見せ合い競い合う場を定期的に設けることで、「私の方がうまい」というクリエイターとしての本能がくすぐられ、恐怖よりも創作意欲が勝っているという。

パネルディスカッションの中で繰り返し話題に上がったのが、経営会議の変容だ。村瀬氏によれば、MIXIの経営会議では「出す方も見る方もAIを使っていないとボコボコにされる」状態になっている。

プレゼンテーションスライドは一部撤廃され、ドキュメントベースの議論に移行。事前にNotebookLMのポッドキャストを聞くといった工夫も生まれた。島村氏は「予算もAIが作ってくれてもいいのではないか。事業責任者の意思はちゃんと入れなければいけないが、過去データから導かれるものはAIが出せる」と述べ、経営のアジャイル化への展望を示した。

それぞれの「次の一手」──来年はAIという言葉を消したい

セッション終盤、各登壇者がこれからの一年の抱負を語った。

島村CFOは「AIに完全に任せるべき部分と、人が介在して付加価値を出すべき領域の線引きを最適化していく」ことをテーマに掲げた。将来的にはAIが経営シナリオのプランニングを行い、PDCAサイクルをリアルタイムで回す世界を目指すという。

吉野CTOは「データの統合と進化」を挙げた。全職種でAI活用は進んだものの、オリジナルのデータソースとAIを掛け合わせる部分にまだ「ワンクッション」がある。たとえば、経営会議で主張したいことをダッシュボードのデータで裏付ける作業は、まだ何度もクリックが必要だ。「こんな資料をこういうふうに主張したい」と言えばAIが作ってくれる状態を目指すと語った。

横山CDOは「MIXIの時間の流れを変える」と宣言した。機能開発に3ヶ月、コラボレーション企画は月1回──誰も決めていないのに慣習的に定着しているタイムスパンを疑い、ユーザーのフィードバックを瞬時に機能改善に反映させる「究極のパーソナライズ」を目指すという。デザイン工程の全てをAIで実行する「オレンジ計画」を来期の目標に据え、さらにエンジニアリングとの統合による「AI開発パイプライン」の構築まで視野に入れた。

「来年はAIという言葉を消したい」

最後に村瀬氏が語った抱負は、象徴的だった。

「来年もしもこのイベントをやるとしたら、ここを消したいんですよ。”AI”っていう言葉を。もうあと一年浸透させれば普通になるかなと思うので。新しい時代が来た時に、AIを外して何をアウトプットして、何を世の中に見せていくのか。『こんなに早くやったぜ』よりも『こんなものをいっぱい出したぜ』と言える一年にしたい」

AIの浸透率を誇る段階はもう終わり、次はAIを空気のように使いこなしながら、どれだけ多くのプロダクトを世界に届けられるか。MIXIが掲げる「コミュニケーション」という原点に立ち返りながら、AI時代のものづくりの速度と質を根本から変えようとする経営陣の意志が、40分間のセッションに凝縮されていた。